漫画のキャラクターには、それぞれの作品背景ごとに役割がある。普通に漫画を読み進めているだけでは気づかないような、有名キャラクターたちの「女子力」について考えてみる連載コラムです。

今回のキャラクター: 毛利蘭(『名探偵コナン』)

女子力モンスター、毛利蘭

先に言っておくが、今回は存分に言いがかりをつけまくろうと思う。何しろ、相手が悪すぎる。毛利蘭は、スペックだけ見ると間違いなく女子力モンスターである。

比較的アンチも多いものの、「彼女にしたいキャラクター」だの「女子力が高いキャラクター」だのといった類のランキング記事では、しばしば上位にランクインしているのを見かける。アンチに嫌われながらも、ランキングではしっかり結果を出すあたり、漫画の中の立ち位置や、灰原哀などと比べるとキャラクター性においては劣るが、女子力面のみが問題とされるならばその実力は認めざるを得ない、といったところなのではないだろうか。そう、あの上位ランクインは"認めざるを得ない票"だと信じてやまない。私は彼女のことが、嫌い、というと言いすぎだが、どうにもいけ好かないのである。

ナンパが友達目当てだったときの反応

いけ好かないと最初に思った、印象深いワンシーンがある。蘭と園子が海でナンパされるシーンだ(22巻)。声を掛けてきた男は、蘭目当てかと思いきや、誘いたかったのは園子のほうだ、と明言する。これはなかなかにエポックメイキングな出来事である。

実際その様子にコナンが驚いたり、そもそもナンパしてくる男はみんな園子ではなく蘭目当て、という描写があったりする。園子も園子で、蘭と一緒に行動するならば、もう少し見た目に気遣いたまえ、まず手始めにその髪型をやめたまえ、と言いたくなるが、話が逸れるので、まあよい。髪型にしたって、園子には園子の事情があるのだろう。さて、そのエポックメイキングなナンパに対して、蘭は「やったじゃない園子!」と大喜びしているのだ。

蘭は白目を剥かない

これを見たとき、格上ゆえの余裕ね、そうなのね、いけ好かないわ、とハンカチを噛みしめたものだが、少し考えてから、違う、そうじゃない、と気付いて、余計にいけ好かない気持ちになった。もしも、蘭が園子のことを本当に格下に見ていたとしたら、ここでちょっと嫌な顔をするはずなのだ。「なんで格下のあの子が、私を差し置いて」と。いわゆる『ガラスの仮面』で言うところの、姫川亜弓が北島マヤに対して向ける白目のそれである。だがしかし、蘭は白目を剥かない。いい子すぎるのだ。

"容姿"、"母性(面倒見の良さや家事能力)"、"時折見せる弱さ"、と、言うなれば女子力界の心技体のような、衣食住のような、司法立法行政のような、3つの心得が揃っていながら、一切白目を剥く様子のない蘭は、どこを切り取っても、振り上げた拳のやり場がなくなる気分にさせられる。スペックに恵まれた者が少しばかり意地悪で、持たざる者がひたむきな性格をしている、というのは、日本のキャラクター界のわびさびだというのに。一度くらい、白目を剥いてもいいと思う。おそろしい子!

※写真は本文と関係ありません

<著者プロフィール>
朝井麻由美
Twitter @moyomoyomoyo フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。ROLa、日刊サイゾー、マイナビ、COLOR、ぐるなび、等コラム連載多数。一風変わったスポットに潜入&体験する体当たり取材が得意。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。ゲーム音楽と人狼とコスプレが好き。