多彩でユニークな世界を作り上げている「ご当地カレー」の魅力をあますところなく紹介する連載企画。ご当地カレーには、おいしいカレーを提供する以外に目的があります。今回は、伝統料理をアピールするために生まれたご当地カレーを紹介します。

  • 伝統料理をアピールしたご当地カレー

その土地の食材を使用したカレー

前回の復習になりますが、ご当地カレーの定義を紹介するところから始めます。

ご当地カレーの定義

  • その土地の食材を使用している
  • その土地の郷土料理をアレンジしている

この2つのうちどちらかの要件を満たしていれば「ご当地カレー」と呼べます。

その土地の食材は、さらに2つのタイプに分けられます。広島の牡蠣や山形牛のように、その土地の名産品をカレーの具に使うパターン。もう一つが「○○牧場の牛」「○○農園の桃」といった具合に、自社の商品を使ったカレーを通じて、地元のアピールにつなげるパターンです。

ご当地カレーを開発して販売しているのは、地方自治体というわけではありません。地域のアピールは、そこに住む人たちの生活に影響を与えます。ご当地カレーの販売者はJAや漁連など食材の生産者が多いのはそのため。その土地の食材の美味しさを知ってもらうために、ご当地カレーを作っているケースが大半なんです。

「地元愛」が詰まっているご当地カレー

実は、ご当地カレーの生産・販売はほとんど利益が出ません。OEMで小ロットの生産となるため、コストがかかり儲ける余裕はありません。それなのに、なぜご当地カレーを作るのでしょうか?

それは、その土地の食材や料理を知ってもらい、食材の販売につなげたいから。ご当地カレーで知った食材を、お取り寄せや店での仕入れなどによる消費につなげることで、ようやく利益を得られます。

ご当地カレーにブランド牛やブランド豚を使用したカレーが多いのは、そのためかもしれません。高級なブランド牛・ブランド豚なら、コストやリスクをかけてご当地カレーを開発・販売しても、自分たちのブランド牛・ブランド豚の売上がアップすれば、ご当地カレーを作った意味があるからです。

中には地元愛や社会貢献の一環として、ガソリンスタンド、ビルメンテナンス、ケアセンターなど、まったく関連のない業界の会社がご当地カレーを開発・販売しているケースもあります。

どんな形であれ「地元愛」が詰まっているのが、ご当地カレーのおもしろさなんです!

  • 北海道・札幌の「オホーツク流氷カレー」。オホーツク海に面した北見市にあるインド料理専門店「クリシュナ」の料理長マスクード・アラムが、オホーツク海の青さと海面に白い流氷が浮かぶ景色に魅せられ、試行錯誤の上に完成させた「オホーツク流氷カリー」をレトルト化

その土地の郷土料理をアレンジしたカレー

地元愛の詰まったご当地カレーには、その土地の食材を使ったカレーのほかに、郷土料理をアレンジしたカレーもあります。

日本全国にその土地でしか食べられてこなかった郷土料理というものがあります。北海道の「三平汁」や山形県の「いも煮」、石川県の「治部煮」、愛知県の「味噌煮込みうどん」、大阪府の「はりはり鍋」、香川県の「讃岐うどん」、岡山県・広島県の「鯛麺」、福岡県の「もつ鍋」、宮崎県の「冷や汁」など、全国的に有名なものもあれば、他県の人は知らない郷土料理もたくさんあります。

郷土料理は地方のアピールに持ってこい。その土地に行かなければ食べられないものは誰しも気にかかるものですよね。ご当地カレーの中には、郷土料理をカレーにアレンジして、その土地のアピールに使っているものもあります。

いなむどぅちカレー(沖縄)

  • 沖縄・那覇の「いなむどぅちカレー」

沖縄県の郷土料理であるイナムドゥチは、豚肉、こんにゃく、かまぼこ、しいたけ、油揚げなどが入った具沢山の味噌汁。沖縄の祝いの席で出される料理のひとつで、うちなーんちゅ(沖縄人)には馴染み深い料理だといいます。

そんなイナムドゥチをカレーにした商品がコレ。海上自衛隊那覇航空基地が監修する「ちゅら海の防人カレー」の第2弾でもある「いなむどぅちカレー」です。「いな(イノシシ)むどぅち(もどき)」という意味の通り豚バラ肉を使用し、こんにゃく、かまぼこ、しいたけも入っていて、イナムドゥチをかなり忠実に作ってある感じ。

豚バラ肉を使った具沢山の味噌汁ということは、要するに「豚汁」ですよね。実際に食べた感想も、まさに「豚汁」。見た目はカレーなのですが、かつおぶしの風味が強く、かつおぶしとみその味が強烈に主張してきます。カレーを食べているのにみそ汁を飲んでいる不思議な感覚に襲われる食べ物でした。

食品工業の技術の進歩はすさまじく、この商品の具材の処理も上手で、特に豚肉が美味しく仕上がっています。うちなーんちゅによると、見事にイナムドゥチを再現しているそうですが、イナムドゥチをカレーにする発想にはびっくりするのだとか。そりゃあ、そうですよね。豚汁ですもんね。

ほうとうカレー(甲府)

  • 山梨・甲府の「ほうとうカレー」

「ほうとう」は山梨の郷土料理。イナムドゥチとは違って、けっこうメジャーな郷土料理なので、知っている人も多いかも。山梨県内では現在でも日常的に食べているそうです。小麦粉で作った太くて短い麺を、カボチャなど野菜と共に味噌仕立ての汁で煮込んで作る、郷土うどんの一種といえるもしれません。

さて、この商品、カレー味のほうとうではなく、ほうとうを入れたカレーだというのがポイント。カレー味のほうとうは、お土産で時々見かけるそうですが、ほうとうを入れたカレーは、珍しい存在だとか。

甲州味噌を使い、ほうとう麺のモチモチ感と煮崩れたかぼちゃがルウに溶け合った独特の味に仕上がっており、「ほうとう」の再現性は高い。レトルトを良く揉んでから温めるとごはんにあいますが、揉まないで食べるとほうとう麺の形が残ってごはんなしでも食べられます。個人的には「ほうとう麺ごはんなし」がオススメです。

残念なのはかぼちゃの存在感が薄いこと。かぼちゃは、ほうとうの中では主演級の役者。かぼちゃにも、もう少し存在感を示せる舞台を用意してあげてほしかったです。ほうとうのかぼちゃを煮崩すか問題は地域差があるようで、甲府盆地周辺では溶けるまで煮るそうですが、山梨県の南部地域ではそこまでは煮ないのだとか。郷土料理の中でも地域色があるのはおもしろいですよね。

次回からは、ご当地カレーの紹介をメインに話を進めていきます。 どんなご当地カレーが登場するか、こうご期待!