「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。
ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。
今回は「受験直前になって、子どもの成績が下がってしまったので心配です」という声にお答えしたいと思います。受験シーズンを迎えて、ドキドキしているお父さんお母さんもいるでしょう。子どもが行き詰まっていたり、成績が下がったり、勉強をさぼりがちになっていたりすると、つい「勉強しなさい」とハッパをかけたくなります。
親は何もできない分、心配になったり焦ったりするもので、その気持ちはとてもよくわかります。子どものこととなると、自分の受験でも感じたことのないような不安を感じますよね。今更ながら、私たちの親もこんな思いだったのかと感謝の気持ちになります。
そんな中、子どもの反応がいまひとつだと、このままでは大変なことになるのでは? と、さらに心配になりますよね。
「叱ってでも勉強をさせたほうがいいのか」、それとも直前なので「何も言わずに子どものペースに任せたほうがいいのか」、親としてどのように接すべきしょうか。今回は、子どもが大事な時期を控えている時の、親の役割と声かけについて、親子コミュニケーションアドバイザーがお答えします。
子どもは言葉に出して不安を調整している
私の娘が受験生の時のことです。本人はけろっとしていたのですが、受験直前の1カ月前に、突然「ママ、どうしよう……もうダメだ……」と言ってきました。珍しく弱気なことを言うので、びっくりして「大丈夫よ。こんなに頑張ってるんだもん」と声をかけたものの、私が眠れないくらいに不安になったことがありました。
先生に相談したほうがいいのか、勉強の仕方を変えるように提案したほうがいいのか、私にできることはないのか、明日はなんと声をかけようか、と夜中に一人であれこれ考えたものです。
しかし次の日、私は心配して「大丈夫だよね?」とひとこと声をかけると、「当たり前じゃん、私を誰だと思ってるの」と笑いながら言うので、「そうだよね! ママもそう思う!」と一安心。昨日のことはなんだったのだろう? と思いながらも、ホッとしていました。
するとまた次の日、「ママ、怖いよ、試験ちゃんと書けるかな?」と抱きついてくるので、「大丈夫に決まってるじゃない、こころ(娘の名前)だもん!」と抱きしめました。
私はそう言ったものの、その日も不安で眠れませんでした。しかし、また次の日「大丈夫だよね?」と声をかけると、「うん、私落ちる気がしないんだよね」と笑顔で言うので、「ママもそう思う。絶対大丈夫」と応えました。そこからは何を言われても、私も落ち着いて受け止められるようになりました。
なぜなら、子どもはいろいろな想いを言葉にして親にぶつけることで、平静さを保っていることに気付いたからです。
"ドーン"と構える親になる
これは、弱気になったり自分を鼓舞したり、また不安に陥ったり気持ちを立て直して強気になったり、大人が頭の中で反芻していることを、言葉にして吐き出すことで心の安定をはかっているのですね。
その言葉に翻弄されて、親も一緒になって焦ったりアドバイスしたり叱ったりせずに、ドーンと構えることが大切です。
1カ月前の大切なこの時期に、勉強方法を変えさせたり、これまでのやり方を否定したり非難したりして、精神的にさらに子どもを追い込まないようにすることが、親にできる唯一のことではないでしょうか。
親以上に"子ども自身が不安な気持ちを抱いている"ということを理解してあげましょう。親はこれまでの努力をほめて根拠を示し、「大丈夫だよ!」と安心させて平常心で試験に臨めるように手伝うことぐらいしかできません。
親の不安を払拭するために、子どもを脅して勉強させようとすることは、この期に及んでは逆効果なのでやめましょう。
"逃げ道"を用意して安心させる
もうひとつ、親にできる大切なことがあります。逃げ道を用意しておいてあげることです。
受験には、どんなに努力して頑張っても失敗することがあります。万が一、第一志望校に不合格だった時に、親は子どもに失敗だと思わせずに、元気に自分の道をまた歩んでいけるような言葉をかけてあげるのが大切です。
たとえば「第一志望の学校だけがあなたの人生の全てではなく、自分の人生を歩むためには、他の道もあるんだから安心していつも通り臨もうね」といったような言葉です。
子どもは狭い世界で生きているので、合格か不合格かだけで判断してしまいがちですが、長い人生の中で、受験は通過点にすぎないという視点も親が提示できるといいと思います。他の道も、できれば具体的に話し合っておけるといいでしょう。
そして、万が一不合格だった時にかける言葉もこっそり準備しておきましょう。親も動揺してしまうので、落ち込んでいる子どもをさらに傷つける言葉を言って人生を終わらせないよう、さらっと言えるようにしておきたいものです。なんてことないよ、って顔で。
「残念だったね、悔しいね。でもよく頑張ったと思うよ。あなたの行く学校で目標に向かってまたがんばろうね」など、決して慌てず、子どもの気持ちに共感しながら、子どもが受験は人生の失敗ではないことを感じられるように話せるといいと思います。
親の言葉で子どもは救われ、また前を向いて進んでいけるからです。