企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。
第18回は、株式会社プリシラ 代表取締役の富澤武志氏に話を聞いた。
経歴、現職に至った経緯
「学生時代から洋服が好きで、ファッションに関わる仕事をしたいなぁ、起業したいなぁと漠然と考えておりました」と穏やかな口調で語りはじめた富澤氏。
最初はファッションとは全く関係のない業種に営業として就職。独自の営業方法を考えたり、アイデアを絞ったりして順調に営業成績を伸ばしていった。
ところが、「『自分が本当にやりたいことはこれだったのかな』というようなモヤモヤを抱えるようになり、1991年、配属された横浜を離れて地元の神戸に戻りました。そしてあまり深く考えず、雑貨やアクセサリーの卸業をスタートしました」
1992年2月、有限会社ディティエイを設立。
「創業当初はアクセサリーなど婦人雑貨の卸会社として、店舗への卸や通販会社、アパレル会社のOEM等をしていました。最初は何の知識もなく、既製品の国内仕入れをしたり、メッキ工場・パーツ工場など手当たり次第に探してはモノづくりに徹していました」
その後、「海外が安い」という情報を得た富澤氏は海外雑貨の輸入に乗り出す。
「海外雑貨の輸入がきっかけで“ウィッグ”という商材に出会い、取り扱いを開始しました。当初は少しずつ売れていった商品が、1年、2年と経つうちに主力商品になっていきました。気付いたら“ウィッグメーカー”になっていたというのが本音です」と控えめだ。
株式会社プリシラについて
続いて、会社概要について伺った。
株式会社プリシラは、神戸市に本社を置き、ウィッグ、アクセサリーなどの輸入卸、企画、製造を手がけている。2022年2月に創業30周年を迎えた。
「ヤングファッションウィッグをはじめ、ミセスシニアウィッグ、医療用ウィッグ等、取り扱いアイテムは1,000種類以上のラインナップです。自社サイトや直営店をはじめ、全国の百貨店・雑貨屋・ドラッグストア・サロン・アクセサリーショップ等の実店舗から、通販カタログやネット通販に至るまで幅広く商品を卸しております」と富澤氏。
プリシラの歴史を紐解いていくと、転機となったのは2007年ごろ。爆発的なギャルブームの到来により、ウィッグがファッションアイテムの仲間入りを果たした。簡単に「盛り髪」が実現できるアイテムとして、「ボリュ巻きウィッグ」や「ハーフキャップ」が大ヒットを記録。2008年に社名を株式会社プリシラに変更した。
「2009年には、耐熱ウィッグブームのトレンドが来ると予想し、オールウィッグをすべて耐熱化しました。同時期に『子どもの髪の毛は細くアレンジが難しい』という声から、キッズ向けの『プリシラガールズ』を開発し、翌年には関東初の直営店を原宿にオープンしました」と振り返る。
2011年にはパリコレでプリシラウィッグが初採用されたり、高品質なミセス/医療向けウィッグ「PRISILA BEAUTE」やミセス・シニア向け「白髪かくしウィッグ」シリーズが登場し、大ヒットを記録。
2016年には、大阪の直営店「プリシラ梅田サロン」を総合ヘア・ビューティーサロンとしてリニューアルオープンした。
「プリシラ梅田サロンでは、ピンクリボンアドバイザーが常駐し、医療用ウィッグに関するカウンセリング・販売を随時行っております。既製品ウィッグの販売だけではなく、セミオーダーウィッグの展開、発毛・育毛メニュー、増毛エクステ、頭皮エステに至るまで、ヘアに関するお悩みすべてに寄り添えるようなメニューを展開中です。今後は全国にパートナーズサロンを展開していこうと考えております」
30年の歴史の中で数々のヒットを飛ばしてきたプリシラ。しかし、常に順調だった訳ではない。
“ルーティン化”の落とし穴
失敗談について伺うと、こう話してくれた。
「最初は『インボイス』の意味も分からず税関で怒られるようなこともありました。何の知識もない状態で輸入卸業を始め、一から勉強をする苦労の連続でした。事業が軌道に乗ってからも、お客様を怒らせてしまったこと、売れると思って作った商品が全く売れないこと、費用対効果の得られない莫大な予算をかけたプロモーションや販促等、細かな失敗は数えきれない程あります」と苦笑する。
中でも大きな失敗により、八方塞がりになった時期があったという。
「認知度も上がっていき、販路も拡大し、売上が安定した時期でしたが、展示会もカタログも春と秋の年にたった2回で、そこに合わせて新作を発売するルーティンに陥っていました。今思えば、『年に2回しか新しくなっていかないブランド』という印象を与えてしまい、面白みに欠けてしまう時期であったと思います」
それまで順調であった売り上げも徐々に落ちていき、増えていたスタッフも減少。窮地に立たされた。
“とらわれない”意識が成長の鍵
そうした苦境をどう乗り切ったのか伺った。
「苦しい低迷の時期を乗り越えて残ってくれたのが今のスタッフです。人数が少なくなったことで、一人ひとりが様々な意見やアイデアを出し合い、チームでありながらも自立した考えを持って動いてくれました。カタログや展示会の時期にとらわれず、『ニーズに合った商品を次々と発売していこう』という流れになっていき、会社にも動きが出てきました」と回顧する。
「固定観念や慣習に“とらわれない“意識がとても大事です。それまで中心となっていた『ヤング向け』の商品だけでなく、ミセス・シニア向けの商品にも力を注ぎ、医療の方向けの商品やサービスまで、需要がありそうなところはすべて強化していきました」
近年のヒット商品の実例も挙げていただいた。
「最近では、高品質で低価格な医療用『帽子ウィッグ』で、累計3万個以上の出荷を誇る大ヒットを達成することができました。白髪の生え始めからグレイヘアへの移行期間にぴったりの商品で、帽子のように気軽に被っていただけます。若年層向けには、数年前からトレンドが続いている“外国人風ヘア”や“くすみカラー”のヘアスタイルは『グラデーションカラー』シリーズで簡単に叶えられると評判です」
自分の髪型・髪質や職業といった制約にとらわれずに「ウィッグだからこそ楽しめるスタイルが欲しい」という声に応えた結果、数々のヒット商品が生まれてきた。数々の失敗や困難を乗り越えた富澤氏はこう言う。
「何事も、『失敗あってこそ』だと思っています。今の失敗は『うまくいかない方法を経験しただけ』という意識です。失敗しないように行動を起こさないのではなく、常に行動を起こしてチャレンジをしていくこと。そのチャレンジを共有できる仲間を作っていくことが大事だと考えております」
失敗をものともせず、挑み続ける姿勢を崩さない富澤氏はこう続ける。
「人間が一人でできることはたかが知れています。その中での『チーム力』が会社を成長させ、また自分自身も成長させてくれるのだと強く思います。失敗したくなければ、動かない、新しいものを作らない、新しいチャレンジをしないこと。そうすれば“失敗”はしません。ただそれは、私にとって衰退を意味しています。一番しんどかった時期は、“ルーティン”に陥っていたからこそ『チャレンジをしていない衰退の状態』であったと思っております」。
就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを
最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けたメッセージをもらった。
「プリシラも創業から30年が経ちましたがまだまだ成長段階です。皆様におすすめできることがあるとすれば、月並みではありますが『報連相』をきちんとするということでしょうか」
チームワークを重視している富澤氏は、報告・連絡・相談の大切さをこう考えている。
「共有や相談を重ねていくことで新しいアイデアが浮かんだり、修正してブラッシュアップされたりしていきます。それと同時に、大事なことをきちんと共有することでコミュニケーションが生まれ、チームの持つ力を強めることができると思います。チームはどんな会社でも作ることができます。自分自身が、『みんながチームだ』と思う事が大切なのではないでしょうか。皆様も良いチームを作ってください」
一人ではできないことでも、仲間と共有することでより良いものを実現できる。経験に基づくアドバイスで力強く締めくくった。