昔、『電車でD』という同人漫画がありました。お察しの通り、『電車でGO!』と『頭文字D』をミックスした作品です。
阪急電鉄2000系を駆る主人公が、関西の電鉄各社のライバルたちと夜ごとバトルを繰り広げるという、じつに血湧き肉躍るストーリーでした。その中で京津線バトルのシーンがあり、マルーンの阪急電車が浜大津の直角カーブを豪快にクリアしていったのが印象的でした。……って、のっけから何の話をしているんだか。
京津線(京阪電気鉄道)は読んで字の通り、京都と大津を結ぶ路線です。途中、「知るも知らぬも逢坂の関」と百人一首にも詠まれる逢坂山を越えてます。もともとは三条駅から浜大津駅まで、すべて京阪の路線でしたが、1997年に御陵(みささぎ)駅より西側が廃止され、いまはそこから京都市営地下鉄東西線へ乗り入れています。
京津線は浜大津駅で石山坂本線と接続しています。石山坂本線も京阪の路線で、京津線と合わせて「大津線」と呼ばれることもあります。
京阪石山坂本線。「いしやまざかほんせん」ではありません。瀬田川沿いの石山寺駅と、比叡山麓の坂本駅を結ぶ14.1kmの路線です。車体幅の狭い電車が2両で走り、一部併用軌道、つまり路面電車になっていますが、線路の幅は標準軌(1,435mm)です。
ここの車両は、アニメ『けいおん!』をはじめ、やたらにラッピングされていて面白いというので、見に行ってきました。実際のところ、筆者は『けいおん!』をちゃんと見ていないので、よくわからないのですが……。とにかく派手なラッピングだというので、これは見ておかないといかんよね! ってことです。
「路面電車でラッピングで」というと、筆者の場合は阪堺線のような電車を思い浮かべてしまうわけですが(かなり地域限定の感性かも)、ここのラッピング電車は「●●工務店」「パチンコ▲▲」というような下町ローカル感満載のものではなくて、先述の『けいおん!』だとか、同じくアニメの『ちはやふる』だとか、その他にもハロウィンやジャズ祭など、ちょっと文化的(?)な、言い換えれば上品なものが多いようです。……もちろん阪堺電車を下品だと言ってるわけではありませんよ! そこ誤解しないでくださいね!
坂本駅は石山坂本線における北側の終点となる駅。ぱっと見ただけでは、駅とは思えないくらいモダンなデザインの駅舎です。駅前広場も美しく整備されています。駅前の道を左に折れると、日吉大社や延暦寺へと続きます。道路両脇のよく手入れされた緑地には、絵を描く人が何人かいらっしゃいました。この日は天気も良かったし、最高の秋日和。絵を描くのも電車を眺めるのも絶好の1日です。
石山坂本線には膳所本町という途中駅があるのですが、この駅前にある「美富士食堂」は、関西の人気番組『探偵ナイトスクープ』にも紹介されたことがある、ちょっと有名なお店です。何が有名かというと、そのボリューム! そう、ここは何を頼んでも悶絶の"でかもり食堂"なのです。
筆者はいままでに2回、ここのかつ丼と"対戦"しました。苦戦しましたが、2回とも勝ってます。ただし、その日は夜になってもお腹いっぱいのままで、空腹になる気配がなく、もしかして一生お腹いっぱいのまま暮らすことになるのでは……と、ちょっと不安になるほどでした。石山坂本線に乗りに来て、ここを素通りすることはできませんよね!(んなこたぁないか)
体の芯までお腹いっぱいになった後、南側の終点、石山寺駅に向かいます。こちらは坂本駅と比べると、ごくごく普通のローカル駅といった雰囲気で、瀬田川のほとりのなごやかな風景に寄り添う、感じの良いたたずまいです。
午後3時の石山寺駅。ちなみにこの日、『けいおん!』ラッピング電車は午後4時からの運行でした。「まあ、駅前でいろいろ見て時間調整すればいいや」と考えていたのですが、この駅前はあまりにも素朴でした。間が持ちません。しかたなく再び電車に乗り込み、三井寺駅まで戻ることに。車窓を眺めながら、この辺の景色がなんだか良さそうに見えたのです。
実際、夕暮れの駅前は良い雰囲気で、小さな鉄橋も周囲の風景になじんでいました。その鉄橋を、『けいおん!』『ちはやふる』をはじめ、さまざまなラッピングを施した電車が通過していきました。そのときの雰囲気を写真でお伝えできたかどうか、いささか心許ないですが。秋晴れに恵まれ、とても有意義な鉄道小旅行の1日となりました。