「Mart」4月号

主婦雑誌「Mart」

今回は、普段あまり手にとらない主婦のための雑誌を見てみました。主婦雑誌というと、時短だったり、料理の工夫だったり、収納のノウハウだったりと、忙しい時間をやりくりしていかに賢く暮らすかという情報が掲載されていると思いがちですが、「Mart」という雑誌は「もっと生活楽しんじゃおう!」というコピーからもわかるように、時間をどう使うかというテーマよりも、生活をどう楽しむかということが大切な雑誌のようです。

例えば、今月号を見ても、「『自分の時間』ができたらなにを始めますか?」ということで、読者の方それぞれが、インテリアショップを巡ったり、習い事をしたり、ネイリストの資格をとったり、スポーツをはじめたりと、実際に『自分の時間』にやっていることが紹介されています。

でも、よくよく考えると、もしも『自分の時間』というテーマが会議で挙がったとして、ほかの主婦雑誌だったら、「どうやって自分の時間を作るか?」ということから企画がスタートするのではないかと思うのです。

問題提起するのは雑誌、答えるのは読者

実際、今月発売中の「すてきな奥さん」の4月号では、「きれいな家ほど主婦がラクしてる!」という特集があり、収納はどうやってするものなのか、その「やり方」を教えてくれているのです。

ほかにも、「すてきな奥さん」には、「スーパーキッズの育て方」「かわいい主婦の作り方」「ママ友コミュニケーション強化BOOK」など、困ったこと、わからないこと、もっと工夫をしたら楽になるにはどうしたらいいだろう……という疑問が第一にあって、それを解決するにはどうしたらいいだろう、という視点で誌面ができています。もちろん、こうした特集も役に立ちます。

また、「すてきな奥さん」では、その「困ったこと」や「お悩み」を相談するのは、読者です。そして、その疑問に答えるのは専門家ということが多くなっています。もちろん、これはこれまでの雑誌作りでは普通の光景です。

でも、「Mart」の場合は、これが逆になります。お弁当事情や、子どもの野菜ぎらいをどうしたらいいか、外ごはんに何を持っていったらいいか……など、「困ったこと」や「お悩み」や「問題提起」をするのは、読者ではなく雑誌の役目です。そして、その疑問に経験から答え、楽しみ方を教えてくれるのは、専門家ではなく、読者自身なのです。とにかく、何があっても、読者が登場し、読者が持っているアイデアを公開することで誌面がなりたっているのです(例外として、あそこのお店のパンをそっくりに焼きたい! などというときは専門家が登場します)。

読者の「自分で考えてみたい」が重要に

「問題提起」に対してのアイデアを公開する読者の中には、普通の主婦もいれば、モデルさんもいます。でも、誌面の作りはモデルと読者でデザインに差があるということもなく、同じ作り。だから、モデルだからとか、読者だからといって、読んでいる方には違いがわからないのです。

このスタイルは、モデルであろうが一般人であろうが、読んでいる自分こそが主体であると思えるし、実際、誌面に参加していない読者であっても、自分が何かのノウハウやアイデア、またこれが流行しているというネタを持っている場合は、今後、情報提供をする側にも成り得ます。

この連載の前号の「女性誌にとっての知性とは」で、今、コンテンツは、「トピックの提供元の役割をするもの」が求められている。また、そのトピックについて読者や視聴者は、「自分で考えてみたい」ということが重要になってきているのではないかと書きました。「Mart」のやっていることも、その形にかなり近いのではないかと思いました。

今後は、「すてきな奥さん」が5月号をもって休刊になり、新雑誌「CHANT」(仮題)を創刊するというニュースもありました。また、講談社も「Rillia」というライフスタイル誌を創刊するそうです。これから創刊する新雑誌は「Mart」とどのように差別化を図り、独自のスタイルを作っていくのかが楽しみです。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。