「ROLa」9月号

「恋愛ばかりが人生じゃないよ」という空気

昨今、女性誌は、恋愛ばかりが人生じゃないよ、というコンセプトのものが多くなっているように思います。大きくそのコンセプトを打ち出したのは、新創刊した新潮社のアラサー向け雑誌の「ROLa」でしょう。ズバリ、創刊号の表紙には「恋より楽しいことがある」というコピーが躍っていて、インパクトを残しました。

また、東洋経済ONLINEでの「non・no」編集長のインタビューによると、「以前、ファッション誌でよく見掛けた『モテるコーディネート』といった言葉が、まったく読者に響かなくなっています」とのこと。

今のアラサー以下の女性たちは、雑誌を読む上で恋に重きをおかなくなっているかのようですが、これは本当なのでしょうか?

逆に、アラフォー向けで今年創刊された「DRESS」の当初のコンセプトは「大人の恋愛雑誌」とされていました。創刊号でも、さまざまなアラフォーの女性たちが恋愛を語り、創刊時のキャッチコピーは「Love40」というものでした。

「DRESS」のターゲットど真ん中の自分としては、このコピーをちょっぴり気恥ずかしく思いました。なんとなく、「私、恋愛に前向きなんです」というのは気分ではない。 そんなときに現れた「恋なんて別に……いいんだからね!」というコンセプトの「ROLa」や、モテはウケなくなったという「non・no」。これって、自分も感じていた、「恋に前向きとかちょっと恥ずかしいし」ということと関係あるのでしょうか。

恋愛を否定しているわけではない

とはいえ、「Rola」や「non・no」の傾向に対しても、「待ってました。そうだよね、恋なんて二の次、楽しいこともいっぱいあるよね」と言えるかというとそうではない。というのは、この二冊、こんなこと言ってるけど、本音に迫るといろいろと事情が複雑そうだからなのです。

まず、「ROLa」は、そもそも、ターゲットに肉食文系女子を据えていて、恋愛を否定しているわけではないとのこと。恋愛していてもしていなくても「恋よりも楽しいことがある」と言える姿勢はちょっと強気で頼もしくも思えます。昨今には珍しく恋のエピソードが豊富で、まだまだ強気で恋愛を続けている蒼井優さんが創刊号の表紙というのも雑誌の本当のコンセプトを聞けば納得です。

「non・no」の場合は、もっと複雑です。前出のインタビューで編集長が、「イマドキの女子にとって、複数の男性からモテるというのは、煩わしいだけで意味がない。彼女たちの理想は、自分から好きになった人と結婚を前提にお付き合いすることなんですね」と語っていました。この発言からわかるように、恋愛よりも結婚、複数からモテるよりも、ちゃんと選ばれたいということが本心のようなのです。

そもそも、「non・no」は、二十歳前後の女性の最大公約数的なところを切り取ってきた雑誌です。となると、内閣府の男女共同参画社会に関する世論調査で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という質問に対して特に20代の賛成が多かったという結果との関係性も見えてくるような……。

「モテること」と「選ばれること」はまったく別物

では、結婚したいのに、モテたいのとは違うというのはどういうことなのでしょう。思うに、昨今は、モテることと選ばれることはまったく別物になっているようにも思われます。

「セフレ」なる概念も出てきてしまった現在、簡単にチヤホヤされたり口説かれるようなキャラでは、モテているように見えても曖昧な関係に陥ることも多く、結婚とは程遠くなるのと考えられてしまうのでしょう。となると、保守的な若い女の子は、そんな風にモテても仕方ない、性的な対象と簡単に見られてもしょうがないと思うのではないでしょうか。

こういう変化を見ると、必ず思い出すのが、2つの曲です。1985年にリリースされた、おニャン子倶楽部の「セーラー服を脱がさないで」では、友達よりも早く大人になりたいと歌っていました。

ところが2012年代に入ると、NMB48が「ヴァージニティー」で、大人になりたいと焦ると処女性という貴重な価値が減ってしまうと歌っているのです。この二曲は秋元康氏が作詞をしていますが、氏の時代の空気を読む能力、時代の空気を作り出す能力の高さを見せつけられた気分になるのです。

このような保守化を、一部では「昭和回帰」と言ったりする人もいるようですが、実は昭和の時代の女性たちは、性的に大人になる機会や情報が乏しいからこそ「早く大人になりたい!」と必死だったわけで。逆に、そのことで性的に大人になる機会がそこかしこに転がってしまった現在は、昭和とはむしろ逆のことがおこっていると考えたほうがいいのかもしれません。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。