貸し金審査のノウハウもない素人経営で、たちまち不良債権の山

東京都が出資する新銀行東京が来年4月に、東京都民銀行と八千代銀行の統合会社「東京TYフィナンシャルグループ」の傘下に入ることになった。東京都は銀行経営から事実上撤退する。

この幕引きに納得できる都民は少ないはずだ。新銀行東京は、「貸し渋りに苦しむ中小企業を救う」名目で、2005年に東京都が1000億円を出資して開業したものだ。ところが、貸し金審査のノウハウもない素人経営で、たちまち不良債権の山を築き、操業3年目で累積損失1000億円を超えた。

破綻を回避するために、東京都は2008年に400億円の追加出資を行った。その後、大幅なリストラとコストカットを行って2010年から黒字転換したが、当初の理念であった中小企業を救う目的を果たしているとは言えない。

石原慎太郎氏の肝いりで銀行設立、都の財政に大きな穴

新銀行東京は、石原慎太郎元東京都知事の肝いりでスタートした。石原氏は、不良債権に苦しむ民間銀行に貸し渋り、貸し剥がしが広がっていたことに憤って銀行設立を強行したが、銀行経営の専門知識もなく、都の財政に大きな穴をあけることになった。

確かに、民間銀行の融資姿勢に問題もある。その姿勢は「晴れた日に傘を差し出し、雨が降ると傘を取り上げる」と批判されることがある。景気が良い時に貸し出しを増やし、景気が悪くなると回収を強化することが問題視されている。こうした銀行の行動は「不況をさらに深刻にし、好景気をさらに過熱させる」として、欧米でも批判されている。

銀行を批判して銀行を設立するならば、卓越した融資審査能力を持つことが不可欠

貸金業は、ビジネスの本質から古今東西批判される体質にある。景気悪化局面で自己保身に走り、回収を強化する傾向があるからだ。そうしないと、銀行自らの信用を毀損することになりかねない。銀行は、預金を原資に貸し出しを行っているが、預金は原則いつでも解約できる。5年定期でも、預金者が解約しようとすれば拒むことはできない。自己資本比率は、健全と言われる銀行でも12%程度しかない。通常の事業会社では低すぎて問題となるレベルだ。こうした不安定性が、銀行を保身行動に走らせることになる。

銀行を批判して銀行を設立するならば、卓越した融資審査能力を持つことが不可欠であった。石原元都知事が、そうした知識も準備もなく、銀行設立を強行して、財政に巨額の穴をあけた責任は重い。

新銀行東京Webサイト画面(出典 : 新銀行東京Webサイト)

東京都が追加出資した400億円の回収、TYフィナンシャルから行う必要

ところで、東京都は、新銀行東京の経営から解放されるが、株式交換によって取得したTYフィナンシャルの株の保有を続けることになる。東京都が追加出資した400億円の回収は、TYフィナンシャルから行わなければならない。

東京都は今後、都の関連する金融事業をTYフィナンシャルに持っていこうとするだろう。ただし、それは本来あるべき姿ではない。東京都は1民間銀行に出資してそこを優先するのではなく、民間銀行を平等に競わせてサービスの一番良いところを使うのが本来の姿であろう。

急速に広がる地銀再編の流れ、日銀の異次元緩和の副産物

近年、地方銀行の経営は厳しさを増し、生き残りを目指した再編が広がりつつある。地方銀行には、もともと融資先が乏しく、集めた預金を国債で運用してしのいできたところも多い。日銀が異次元緩和で長期国債の利回りを0.5%まで低下させたことは、融資力の乏しい地方の中小金融機関を追い詰めることになった。急速に広がる地銀再編の流れも、日銀の異次元緩和の副産物ともいえる。

TYフィナンシャルも地方銀行の再編の流れから誕生した。ただし、銀行の統合や合併には、いろいろな困難が伴う。一番の問題は、それぞれが独自に築いてきたシステムの統合に大きなコストがかかることだ。これまでの地方銀行再編では、システムや人事制度の統合ができないため、合併せずに、複数の地方銀行を共通の持ち株会社のもとに置くだけのことが多かった。ただ、システムまで統合しないことには銀行統合のシナジー効果が出しにくいのは事実だ。TYフィナンシャルも同じ問題を抱えている。

近年は、融資ではなく、決済を中心に収益を稼ぐ銀行も現れている。たとえば、セブン銀行は経常収益の約94%がATM受け入れ手数料だ。セブンイレブンの出店拡大にともなって、安定的に増益を続けている。新銀行東京を傘下に取り込むTYフィナンシャルには、これからさまざまな形態の銀行との競争が待ち受けている。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。