シャープの経営再建が軌道に乗ると見る声は「ほとんどない」
シャープは14日、2014年度の最終損益が2223億円の赤字に転落したと発表した。同時に99%超の減資、3500人規模の希望退職、本社ビル売却を含むリストラ策を公表した。約1200億円ある資本金は5億円まで減らす。
今回リストラ実施を決めたことで、メイン取引銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行から総額2000億円の金融支援を受けることが可能となった。ただ、これでシャープの経営再建が軌道に乗ると見る声はほとんどない。
再建が成功するには、3つの条件が必要である。
金融支援によって痛んだ財務を立て直す。
競争力を失った不採算事業から完全に撤退する。
競争力の高い事業を選別して残し、そこに集中する。
今回シャープが発表したリストラ策は、そのいずれにおいても不十分といわざるを得ない。
技術革新に邁進し人類の進歩に貢献をしながら、「利益を上げることができない」
日本には、技術一流で、利益を稼ぐビジネスモデルのない企業が多い。シャープはその典型だ。ひたすら技術革新に邁進し、人類の進歩に多大な貢献をしながら、自らはほとんど利益を上げることができない。
シャープは、これまで何十年にわたり、人類に多大な恩恵をもたらしてきた。液晶分野で常に最先端の技術革新を主導してきた。その恩恵で今日、私たちは高品質・高性能の液晶を使うことができるようになった。
ところが、シャープの液晶技術は、当初はただ同然でアジア企業に流出していった。私は、20年前のシャープをよく覚えている。当時はまだ、技術漏えいを防ぐための手立てを講じる意識が乏しかった。当時の経営者や技術者は、「液晶技術の革新に邁進すること」「少しでも早く液晶を世界へ広めること」に使命感を持っていた。技術を完全に囲い込むと、世界への普及が遅れるので良くないと思っていた節すらあった。
アジア企業は、シャープの技術を使って開発した液晶製造装置を購入するだけで、これまでの開発の成果を手に入れることができる状態が続いた。
シャープが技術防衛の必要を痛感し、対策を強化したのは、2000年代半ばからであった。時すでに遅く、シャープの転落を止めることはできなくなっていた。
今のシャープにもはや価値はないのか!?
今のシャープにもはや価値はないか。実は、大きな価値がある。液晶の技術力では、今でも世界の最先端にいる。台湾の鴻海(ホンハイ)は、経営の悪化したシャープに何度も出資を申し入れている。出資、場合によっては買収することで、シャープの技術をすべて取得できるならば有利と判断しているのだろう。
シャープの技術を丸ごとアジア企業に持っていかれてはならないと、これまで日の丸連合でシャープを救済する案が何度も取りざたされてきた。ところが、今回の主力銀行による金融支援は、抜本策にほど遠い。いつまで待てば、抜本的な改革策が出てくるだろうか。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。