「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第232回のテーマは「どうしてキレられても平気だったのか」です。

これまでのお話はこちら

私のパートナーは「キレる」人でした。この話はたくさん描いてるのですが、たくさん描いてるがゆえによく聞かれることがあります。

「どうしてキレる人なのに一緒にいるんですか? 」「どうしてキレられても大丈夫なんですか? 」という質問です。

どうして大丈夫なのか……と自分でも考えてみたのですが「キレる」というのは、コントロールできていない負の感情を他者に押し付ける行為だと思っています。ダメージを受けるというのは、その理不尽な負の感情の押しつけを引き受けてしまうからだと考えています。

しかし、私はだいたいの場合その負の感情を引き受けないことにしています。その方法はいくつかあるのですが、まず簡単なのは「その場から離れる」ことです。

パートナーと付き合いはじめの頃、電車の中で突然キレられたときに私は何も言わずに車両を変えました。そして、「落ち着くまで会話はしない」と伝えました。電話をしているときにキレられたときは、その瞬間に電話を切り、そして電源も切りました。

「キレたら、会話も関係も続けない」という意思表示をしたのです。「理不尽にキレるのであれば、おまえとの関係は終わりだ」ということです。これは結構効きました。そしてこれは自分の心を守るためでもあります。「相手がキレているのは私の問題ではない」と割り切るのです。不満があるならそれについての話し合いはしますが、感情がコントロールできていないのは私の責任ではありません。

ちなみにこれ、昔からできていたわけではありません。パートナーと付き合いはじめの頃、私はまだ初婚での離婚のダメージを引きずっていました。心が疲弊していたので、「理不尽な負の感情」を押し付けられても「知るか、ケアなんかできるか」とやさぐれた心でシャットアウトできたのです……。

こちらのメッセージを相手が受け止めて、行動を改めるのであれば改善の余地があるということだと思い、パートナーは改善してくれたので、私はそのまま関係を続けました。その後、結婚して子どもができてからはそう簡単に「遮断」できなくなりました。なので「反論」することにしたのです。この連載の中でも私は多くの場合反論し、相手の矛盾を指摘してきたので説明するまでもないかもしれませんが……。私はかなり「反論」が強めなタイプです。私は「理不尽だ」と思うと、それを引き受けて黙ることができません。この私の反論により、ほとんどの場合パートナーが反省するということが多く、それで今も関係が続いています。

それにしても、「そもそもキレたりしない人のほうがよくないですか? 」と言われればそれはごもっともとしか言いようがありません。しかし、パートナーの「キレる」という要素はパートナーの一面です。全てではありません。パートナーは同時に人の話をよく聞ける人であり、思いやりがあり、優しくて面白い人でもあります。

そのポジティブな要素を全て切り捨てるのは私にとっては損失です。とはいえ、「いいところもあるから悪癖も許してる」というわけではありません。悪い部分は改善してもらって、それについてパートナーとは話し合いができます。お互いが納得し、お互い快適でいられるにはどうしたらいいか、と試行錯誤できる相手であるというのは、私にとってはとても大事な相手なのです。

……と思っていたのですが、最近パートナーとちょっと揉めたときのこと。「どうしてあんな態度をとったの? 」と聞くと、昔だったら不機嫌満々か、キレてるかのところで彼は「今はまだ感情が整理されてないから言いたくない」と言ってきました。私は「はあ? 感情的になってもいいから言ってよ」と思いました。つまり、向こうは「キレたくないし、このままだとキレるから嫌だ」と言ったのに、私は「はあ? キレてもいいから言ってよ」と思ったんですね。

あっ……なるほど。私は相手の本音を知るためなら、多少のキレは厭わないのか。と思いました。「キレる以外はいい人だから」というのは本質じゃなくて、私は「キレてもいいから本音を知りたい」という欲求があるんだな、と気が付きました。私は結構せっかちなのです。

キレるというのは感情の発露なのでそこに本音や心理が隠れていることがあります。私には相手を理解し、納得したいという欲求があって、さっさとそれがわかるのであればキレられてもリターンがあると思えるんですね。得られるものがあるからこそ「キレられても大丈夫」だったのかもしれない……と気が付きました。

最近はパートナーがキレずに本音や思ったこと、感じたことを言えるようになってくれたので、とても嬉しいです。このままより穏やかな関係になれるようにこれからも話し合っていきたいなと思っています。

新刊『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい! 』

(幻冬舎刊/1,100円)
12月7日発売。家事分担や育児にまつわる諸問題を話し合って解決してきた著者・水谷さるころ&事実婚パートナーのノダD。しかし子どもが大きくなって、しかもコロナ禍に突入したことで、夫・ノダDの「不機嫌&キレ問題」が再燃焼! 「これは家族だけでは解決できない! 」と決意して家族でカウンセリングに通い、改善していった実録コミックエッセイ。担当カウンセラー・山脇由貴子先生のコラムも収録。くわしくはコチラ

著書『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』

(幻冬舎/1,100円)
全編書き下ろしエッセイマンガ!
バツイチ同士の事実婚夫婦にめでたく子ども誕生! ここから「家事と育児をどうフェアにシェアしていくか」を描いたコミックエッセイです。家事分担の具体的な方法から、揉めごとあるある、男の高下駄問題、育児はどうしても母親に負担がいってしまうのか、夫のキレにどう対処する? などなど、夫婦関係をぶつかりつつもアップデートしてきた様子を赤裸々に描きます。くわしくはコチラ

著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。