社内の会議で、取引先との打ち合わせで、あるいはビジネスレターで、誤った敬語や言い回しを使ってしまった経験はないだろうか。そこで本連載ではビジネスシーンで陥りがちな誤用表現などを取り上げていきたい。

誤用の多い言葉・慣用句

言葉の使われ方は、時代とともに変化する。今回は、言葉・慣用句を間違った解釈で使う人が増えている実態について取り上げる。まずは以下の例文をご覧いただきたい。

「私には役不足ですが、頑張ります」

会社で昇進した際に抱負を述べる、そんな場面だろうか。「いただいた役目に対して、私の実力は不足しておりますが」と謙遜した積もりだろうが、これが大きな間違い。「役不足」の意味は「本人の力量に対して、役目が軽すぎること」なので、これでは「私にこのポジションは軽すぎますが、頑張ります」と言っているに等しい。

文化庁・文化審議会の「敬語の指針」(平成24年度)によれば、「役不足」を「本人の力量に対して、役目が重すぎる」と誤って解釈している人の割合は51.0%にも上り、本来の意味を正しく理解している人の割合(41.6%)を大きく上回っている。実は、このような逆転現象が起こっている言葉・慣用句は珍しくない。

次に「やぶさかでない」を取り上げよう。

「お話のあったプロジェクトの協力にも、やぶさかではありません」

取引先との打ち合わせで、先方は確かに「喜んでプロジェクトに協力します」と言っていた。しかしメールには「やぶさかではありません」とある。ひょっとしてトーンダウンしてしまった? そんな心配は無用である。「やぶさかでない」の本来の意味は「喜んでやる」。つまり先方は、変わらず「プロジェクトに喜んで協力します」と言っているわけだ。「敬語の指針」(平成25年度)によれば、この「やぶさかでない」を正しく理解する人の割合は33.8%、「仕方なくする」と誤って解釈している人の割合は43.7%だった。

誤用する人の割合が半数にも達する言葉・慣用句の使用には慎重を期したい。意図したニュアンスが相手に正しく伝わらなければ、トラブルに発展する可能性もあるだろう。