2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第5回は「平成5年(1993年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成5年(1993)は4月に、現在も放送中の『NHKニュースおはよう日本』『クローズアップ現代』(NHK)がスタート。不振が続く音楽番組では、7月に『COUNT DOWN TV』(TBS系)と『ポップジャム』(NHK)が放送開始され、ひさびさの明るい話題となった。

スポーツでは何と言っても、5月のJリーグ開幕。各局が週2日のテレビ放送を行うなど一大ブームを巻き起こした一方、10月にはサッカーアメリカワールドカップ出場を賭けた予選の最終戦ロスタイムで出場を逃し、「ドーハの悲劇」と呼ばれた。

その他の番組では、6月9日の「皇太子徳仁親王と小和田雅子の結婚の儀」。各局が長時間特番を放送するなど、「雅子さまフィーバー」が巻き起こった。

ドラマでは、前年に“冬彦さんブーム”で盛り上がった『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)のヒットを受けて、クセの強い作品が続出。続編的な位置づけの『誰にも言えない』(TBS系)だけでなく、各局がけれんみたっぷりの作品でしのぎを削った。

数多くの名作がある中、TOP3には脚本家の技が冴え、ラストシーンが印象的な3作を選んだ。

薄幸ヒロインのシニカルな結末

■3位『素晴らしきかな人生』(フジテレビ系、浅野温子主演)

浅野温子

浅野温子

連ドラ史上屈指の薄幸ヒロインを浅野温子が好演。周囲は人が良さそうに見えて自己中心的なキャラばかりで、常にヒロインは悩みの中にいた。

高畑結女(浅野温子)は、高校時代、永沢邦生(田中健)と交際していたが、別れた直後に妊娠が発覚。幼なじみの穂坂新平(佐藤浩市)と結婚するが、浮気癖に嫌気がさして離婚。邦生の弟であり、娘・遙(ともさかりえ)の教師である芝木貢(織田裕二)から猛烈なアプローチを受けて戸惑う中、乳がんが発覚し、乳房を失ってしまう。

さらに邦生が現れ、遙の父親であることをバラされるなど、苦悩の日々を超えて再婚したが、貢の元恋人・伊藤初音(富田靖子)から執拗な嫌がらせを受けたあげく自殺。ショックの貢が行方不明になる中、何とか見つけて後追い自殺を止めたが、彼は1人で北海道の学校へ赴任することを決意する。3年後、料理修行先のロンドンから帰国して貢と再会を果たすが、がんが再発して余命わずかの状態だった。

ただ冷静に見れば、病気以外は「モテすぎるがゆえの不幸」ばかり。捨てられたり、浮気されたりするものの、「やり直したい」と必ず戻ってくるモテ女の役は、いかにも浅野温子らしい。

なかでも、「小学生時代から兄の恋人だった結女が好き」「遙を出産しても、穂坂と結婚してもあきらめず、同棲中の初音よりも結女が好き」という貢は、純愛の名を借りたストーカーそのもの。その貢と大学の同級生だった初音も、別れたあともあきらめず、結女に嫌がらせをし、自殺後も幻影となって現れる筋金入りのストーカーだった。

終始、光っていたのは、脚本家・野沢尚が手がける濃密な人間関係と繊細な心理描写。特に、17歳の遙が結婚式を挙げる最終回のラストシーンが見事だった。

3年ぶりに会った穂坂と邦生から「いい女になった」とホメられ、遙から「素晴らしい人生を与えてくれてありがとう」と感謝され、貢から「もう話さない」と抱きしめられ、ようやく幸せをつかんだ結女。しかし、がんの再発で余命わずかであることが明かされ、それでも笑顔を振りまき、「幸せにしてね」と話す姿が何ともシニカルだった。最近は視聴者の批判を恐れるようなハッピーエンドばかりだけに当作のラストがまぶしく感じる。

主題歌は、井上陽水の「Make-up Shadow」。ダンサブルなイントロと艶のある歌声が、激動の人生に翻弄された艶やかなヒロインを象徴するようだった。

織田裕二が「カンチ」から悪のヒーローへ

■2位『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系、織田裕二主演)

  • 織田裕二
  • 石黒賢
  • 織田裕二(左)、石黒賢

天才的な技術を持ちながら、ごう慢な言動が多く、製薬会社からの接待を受ける司馬江太郎(織田裕二)と、正義感の強いアメリカ帰りの石川玄(石黒賢)。対照的な2人の外科医を魅力的に描いた名作であり、当時はまだダークヒーロー自体が少なく、しかもベビーフェイス役が多かった織田がヒール役を演じたことで話題を集めた。少なくとも、2年前に『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で演じた「カンチ」の印象を払拭したのは間違いない。

2人の外科医に加え、外科部長・中川(鹿賀丈史)、薬品・医療機器営業の星野(中村あずさ)など、その関係性は『ブラックペアン』(TBS系)とそっくり。こちらの原作小説は1988年の設定だけに医療事情が近く、似ているのも納得できる。

最後は、スキルス胃がんに侵されていた石川が息絶え、司馬は罪を着せて病院から追われた平賀(西村雅彦)に刺されて倒れたところで終了。この結末は、織田がクランクアップ間近に、「これほどの悪役が生き残っていいのか?」と問いかけたことがきっかけという。しかし、このラストシーンこそ、タイトルの意味そのものになっているから不思議だ。

脚本を手がけた三谷にとっては、何度となく筋書きを変えられ、イメージとは大きく異なる作風になってしまった悔しさが残る作品。しかしファンにとっては、喜劇作家の三谷が手がけた貴重なシリアス作として、忘れられないものとなっている。

また、「玄人ウケの傾向がある三谷脚本が、プロデューサーの手によって、一般視聴者にもわかりやすい作品に変ぼうしたことで、大ヒットにつながった」という側面もあるだろう。『白い巨塔』(フジテレビ系)とも比べられがちだが、エンタメ度なら当作のほうが上回っているのではないか。

その後、当たり前のように扱われるようになった安楽死、製薬・機器会社との癒着、医療ミスなどを真っ向から扱っていたことも含め、21世紀の医療ドラマに多大なる影響を与えた。たとえば、石川の心肺が停止し、司馬が必死で心臓マッサージをしながら「戻って来い! 戻って来い!」と叫ぶシーンは、オマージュのように何度も使われている。

病気で回を追うことに顔が白くなっていく石川と、一貫して黒光りしている司馬。当時、「腹だけでなく顔も、白と黒のコントラストがハッキリ」と話題になっていた。織田も石黒も出演作は多いが、ともに誰もが認める代表作と言っていいだろう。

主題歌はCHAGE&ASKAの「YAH YAH YAH」。この年の年間売上1位となるダブルミリオンを達成し、カラオケで両手のこぶしを突き上げて歌う人が続出した。