――平成の30年で、音楽番組が進化している部分はどんなところでしょうか?

山田:『紅白』は生放送でのセット転換が変わりましたね。昔は物理的な美術セット転換が勝負だったので、大道具さんとケンカみたいに言い合って、パズルのようにセットを並べて、組み合わせて転換の計画をしてと、やりくりが大変でした。今は大道具のセット転換に頼らなくても、LEDでさまざまな背景映像表現ができるようになりましたね。番組の音楽資料も、昔はカセットで渡していたのがMDになって、今はデータですから。昔はカセットで一生懸命作っても、曲順が変わったら1から入れ替えて作り直し…みたいなこともやりました。それで、音楽資料作りのために録音をセットしながら、同時に台本に載せる歌詞カードを書くとか…(笑)

きくち:音楽番組ADあるあるですよね。カット割りを作るために、歌詞カードを作るんですよ。

山田:その後、歌詞カードも手書きからがワープロ、パソコンになってからはコピペですからね…。

きくち:ワープロで資料を作って美術の会議に出したら、「これだと情がないから分からない」って言われたことがありますよ(笑)

山田:そういう人いましたよね! 「交渉に使う文章で活字だと威圧感があるから手書きにしろ」とか(笑)。でもテクノロジーの進化はメディアの進化につながってますからね。カメラの台数、収録機の台数も増えて、機材もどんどん小さくなり便利になりました。

■アニメソングの可能性

――もうすぐ平成が終わりますが、音楽も趣味嗜好が細分化されていると言われる中、次の令和時代でどんな音楽番組をつくっていきたいですか?

山田:僕はもともとオタク気質があって、マンガやアニメが好きだったんです。深夜のアニメ番組が増えて、ようやくアニソン業界からが良い形で実力のあるアーティストがたくさん出てきた状況なので、そういう今勢いあるジャンルを音楽番組に上手にフィーチャーしていければいいかなと個人的には思います。

――山田さんが演出を担当された2015年の『紅白』では、「アニメ紅白」のコーナーをやりましたよね。

山田:ちょうどアニメ・アニソンが注目されてきた時期で、たくさんの紅白出場アーティストがいろんなアニメとコラボすることができれば素敵だなと思い、さらに協力していただける方もいて企画しました。権利関係が難しくてなかなかできない企画ですが、やっぱり『紅白』という一点集中の生放送だからこそできたんだと思います。そこが『紅白』の醍醐味でもありますね。

きくち:あの年はμ’sが出ましたよね。あれは見事でした。ステージ上でのライブということもそうなんですけど、映像のシンクロがすごいと思いました。

山田:あの紅白はμ’sを引っ張り出すのに、一生懸命でしたね(笑)

  • 2015年の『第66回NHK紅白歌合戦』に出場したμ’s

きくち:自分は初心者のアニオタで、ここ4~5年すごい見てるんですが、一方でアイドルとも仕事をしていると、ビジネスモデルとしてのアニメの強さを痛感しますね。アイドルファンって、48グループのファンとハロプロのファンとスタダ(スターダストプロモーション)のファンとが全然交わらないんですよ。でも、『アニサマ』みたいなイベントって3曲ずつで歌手がどんどん入れ替わっていくけど、ファンはずっといるんですよ。これはアイドルではありえない。それに、アニメは海外でも通用しますもんね。

山田:アニソン・イベントで皆が水樹奈々さんも田村ゆかりさんも同じように応援するんですよ。だから、アニソンのイベントが成立してるんだと思います。その姿を見て、愛のある人たちだなって思って感動してます。

■趣味嗜好の細分化の壁をなくす

――きくちさんは令和時代への展望、いかがですか?

きくち:知らなかった音楽を見せるきっかけをつくりたいですね。『FNS歌謡祭』とか「思わず次のやつも見ちゃう」というのがベストで、言ってみれば野球じゃなくてサッカーだと考えて。野球だと表と裏があるから、ビール買いに行ったりトイレ行ったりできるじゃないですか。でも、サッカーは45分間席を立てないんですよ。それで、MCをなくして曲を10曲以上つなぐ構成を考えました。AKBが苦手でも2分経てばジャニーズになるし、ジャニーズが苦手な人でも2分経てばSuperflyになる感じ。そうやって、全部のジャンルの音楽を全部の人にとりあえず聴いてもらえたら、新しく好きな音楽と出会えるかなと。『夜ヒット』の一番優れていたのってきっとそういうところであって、洋楽好きでもいつ出てくるか分からないから、五木ひろしを聴いてたんですよ。だから、アニメも洋楽もK-POPも混ぜていくべき。『紅白』はそれが正しくできる番組だと思いますね。

山田:子供の頃は洋楽ロックばっかり聴いてたけど、まさにテレビっ子だったので『夜ヒット』や『ベストテン』で五木ひろしさんとか山本譲二さんとか吉幾三さんとか普通に観て聴いてたから、仕事でご一緒することになっても当時の曲など覚えていたので、全然苦労しなかったんですよね。

きくち:先ほどおっしゃった趣味嗜好の細分化という薄いのか厚いのか分からない壁を取っ払うということではなくて、うやむやのうちになくしちゃう感じがベストですかね。

山田:そうですね。細分化しても、俯瞰して全部入れちゃえばいいんですよね。

●きくち伸
1962年生まれ、岩手県出身。筑波大学卒業後、85年にフジテレビジョン入社。『夜のヒットスタジオ』『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』『LOVE LOVEあいしてる』『TK MUSIC CLAMP』『堂本兄弟』『僕らの音楽』『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』などを担当し、「フジテレビ音組」をけん引。現在はコンテンツ事業室ゼネラルプロデューサーとして『坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT』などCS放送の番組を担当。

●山田良介
1964年生まれ、北海道出身。北海道大学卒業後、89年にNHK入局。『NHKのど自慢』『ふたりのビッグショー』『NHK歌謡コンサート』『熱唱オンエアバトル』『きよしとこの夜』『ザ少年倶楽部』『洋楽倶楽部』『今日は一日HRHM三昧』などを担当し、『NHK紅白歌合戦』は13年にチーフ・プロデューサー、03年、04年、15年に演出を担当。現在はNHKエンタープライズ制作本部エンターテインメント番組部長。『アニソン!プレミアム!』などアニソン関連番組を担当。