次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第69回は「プラントベース」。
「プラントベース」って何?
「プラントベース(plant-based)」とは植物由来の食材を中心とした食生活のこと。1980年代にアメリカの生化学者で栄養学分野のアインシュタインとも呼ばれるコリン・キャンベル博士がプラントベースを「低脂肪かつ繊維質を含む植物由来の健康的な食事」と定義したとされる。
プラントベースは動物性食品を全く食べないヴィーガンとは異なり、植物を積極的に取り入れていこうとするライフスタイルだ。したがってプラントベースの食事では、卵や乳製品が食されることもある。ここまでは肉や魚を食べないベジタリアン(一部には魚を食べるのはOKとするベジタリアンもいる)の思考に近い。ヴィーガンやベジタリアンと大きく違うのは、食品の一部をプラントベースフードに置き換えるだけでOKなので、肉や魚介類を食べても問題ないところだ。このようにプラントベースには厳密なルールがないため、ヴィーガンやベジタリアンでなくても気軽に取り入れられるだろう。
近年、多様性を意味するダイバーシティという言葉がよく使われるようになった。年齢や性別、価値観などのダイバーシティだけでなく、フードダイバーシティ(食の多様性)も昨今のトレンドだ。こうした流れを受けて、食品メーカーや飲食店がプラントベースフードを続々と開発・販売し始め、新たな市場として注目されているのだ。
「プラントベースフード」はどこで食べられる?
たとえば株式会社モスフードサービスが展開するハンバーガーチェーン「モスバーガー」は、2020年5月から動物性の食材を一切使用しないプラントベースの「グリーンバーガー」を発売している。
「さまざまなライフスタイルをお持ちの方が同じ空間で食事を楽しんでいただけるものを提供したいという思いから『グリーンバーガー』を開発しました。台湾やシンガポールで代替肉を使用したハンバーガーが好評だったことも開発のきっかけの1つです。お客様からは『とてもおいしかった』『動物性由来の食材を食べなくなってからハンバーガーを食べるのは諦めていたのでうれしい』といった感想が寄せられています」(株式会社モスフードサービス広報IRグループ担当者)
一方、エシカル消費や健康志向の高まりを受け、プラントベースフードを全面に打ち出したお店「2foods(トゥーフーズ)」も注目を集めている。都内に4店舗をオープンしている同店ではヘルシーとジャンクの共存をコンセプトに、従来の「健康食=おいしくない」というイメージを覆すような美味しさにこだわった商品を販売している。
メニューはドーナツやプリンなどのスイーツ系と、カレーや丼、麺類といった食事系があり、イートインとテイクアウトが可能だ。「こく旨オリジナルカレー」(テイクアウト950円、イートイン968円)には15種類ものオリジナルスパイスミックスを使用。ライスは玄米にカリフラワーをミックスしている。カレーライスの標準的なカロリーは600~700キロカロリーに比べ、同店の「こく旨オリジナルカレー」は488キロカロリーと抑えてあるが、味わってみると味気ない感じはしない。「スパイシーまぜそば」(テイクアウト950円、イートイン968円)の麺には玄米使用の麺を使用しているが、小麦麺のような食べ応えを実現させている。
2foodsを運営する株式会社TWOのPRマネージャー武田瞳さんは「ただ健康にいいというだけではなく、美味しいと思っていただける味にこだわりました。特に『まるでたまごなドーナツサンド』(テイクアウト518円、イートイン528円)は豆腐とかぼちゃで卵を再現し、味は卵そのもの。卵独特の香りは特殊なスパイスを使い、五感で卵を感じていただけるようになっています。どの商品も『プラントベースフードとは思えない』『全然気づかなかった』といった驚きの声をいただきました。プラントベースフードという言葉をご存知ないお客様のご利用も多いです」と話す。
また、コメダ珈琲はプラントベースの喫茶店「KOMEDA is □(コメダイズ)」を東京・東銀座にオープンさせた。ほかにもサスティナブル未来レストラン「The Vegetarian Butcher(ベジタリアンブッチャー)」(東京・池袋)はプラントベースミートを使ったコース料理が評判だ。このようにプラントベースを提供する飲食店の出店が増えている。
飲食店のみならず、食品メーカーもプラントベースフードの開発に注力するようになった。そのため、スーパーや通販などでプラントベースフード食品が気軽に購入できる。スーパーでは「植物性」を売りにする動きも目立つ。自宅で簡単にプラントベースフードが食べられる環境が整いつつあるようだ。
カゴメ株式会社は2019年よりプラントベースを使ったレトルト食品を販売し、現在は6種類をラインアップ。賞味期限が1年と長いため、長期保存食としても重宝されそうだ。 ほかの食品メーカーも冷凍食品や惣菜など大豆ミートをはじめとするプラントベースフード市場に続々と参入している。今後もプラントベース商品の販売はますます増えていくことだろう。
プラントベースの食品を食べてみた
実際にプラントベースの食品を食べてみた。まずはモスバーガーの「グリーンバーガー」を実食。「グリーンバーガー」には五葷(ごくん)と呼ばれるニンニクや玉ねぎなどの臭いの強い野菜が使われていない(五葷は一部のベジタリアンの食の禁忌になっている)。そのため、味が物足りないのでは?と思ったが、トマトソースにも大豆由来のオリジナルパティにもしっかりとした旨味がある。ほうれん草ピューレを練り込んだ薄緑色のバンズとの相性も良い。オリジナルパティはまるで肉のような食感があり、食べ応えは十分だ。
定番のモスバーガーは約367キロカロリー。それに比べ「グリーンバーガー」のカロリーは299キロカロリーと控えめだ。だが、その食感や味は、ほかのハンバーガーと変わらない。野菜がたっぷりと入っているため、ヘルシー志向の人だけでなく、バランスよく栄養をとりたい人にもおすすめの商品だ。
次に「2foods」の人気商品「ラズベリーピスタチオドーナツ」をテイクアウト。 「ラズベリーピスタチオドーナツ」の見た目はラズベリーグレーズのピンクとピスタチオのグリーンが映えて色鮮やか。ふわふわでもっちりとした食感でパサパサ感はまったくなく、ラズベリーの甘酸っぱさが生地とよく合っている。ピスタチオとキヌアがいいアクセントだ。 「ほかにもグルテンフリースイーツの『濃厚ガトーショコラ』は、オンラインショップでもご購入いただけるのでお取り寄せスイーツとしても人気です」(株式会社TWO武田さん)とのこと。
自宅で食べられるプラントベース食品としてカゴメの「根菜と大豆ミートのボロネーゼ」(250円)と「大豆ミートのキーマカレー」(310円)を食べてみた。「根菜と大豆ミートのボロネーゼ」の作り方は簡単で、茹でたパスタに、電子レンジまたは湯煎で温めたソースを混ぜるだけ。食感は肉そのもので、根菜がいいアクセントになっている。味はやや甘めで、いわゆる市販のミートソースに似ている。
続いて「大豆ミートのキーマカレー」も実食。辛さは控えめで、トマトの酸味が効いている。味はしっかりしていて、食感も申し分ない。どちらも何の情報もなく食べたらプラントベースフードだと気づかない人もいるだろう。ヴィーガンでなくても十分満足できる商品だった。
同社は植物性食品を取り入れた新しいライフスタイルの普及と植物性食品の活用を通じた持続可能な社会の実現をめざし、2021年3月に「Plant Based Lifestyle Lab」を他14社(前述の株式会社モスフード含む)とともに設立した。また、5月には前述の株式会社TWOとも業務提携し、プラントベースフードの新規開発に積極的に取り組んでいる。いまや企業や業界の枠を超えて大きな動向となっているのだ。
プラントベースフードと聞くと「ヴィーガン」や「ベジタリアン」が食べるものとイメージしている人もいるかも知れないが、植物を積極的に取り入れることに重きを置いているため誰でも受け入れやすい。どの企業も味や食感にこだわり、「おいしさ」と「健康」の両立を追求している。仕事で忙しくなると栄養が偏りがち。環境と健康に配慮したプラントベースフード、ぜひ一度試してみては?