若手社員のコミュニケーション力低下に危機感
東京都杉並区、西武新宿線井荻駅から歩いて数分の場所にある遊歩道沿いの大きな家。ここが、「楽しみながら人間力のある子を育てる」がモットーの民間学童保育「いおぎみんなの学校」だ。この場所に開校したのは2012年である。
代表を務める高橋和の助さんは以前、広告代理店に勤務していた。武士道を通じて道徳やマナーが学べる子ども向けのコンテンツ開発に従事し、武士道に関する本も出版。そんな彼がサラリーマン時代に年々感じていったのが、若手社員のコミュニケーション力低下だった。与えられた業務は完璧にこなすが、同僚や上司との接し方が分からず、目も合わせない。部内の電話が鳴っても出ない。「社会に出る前に、勉強だけではない人とのつながりや総合的な人間力を育む場が必要なのでは? 」と危機感を募らせていたという。
そんな折、社のCSRの一環として、東日本大震災の被災地を訪れて遊び場を失った子どもに本やおもちゃを提供するプロジェクトに参加。子ども達の嬉々とした表情を間近で見て、子どもにとっての遊び場の重要性を再確認した。
「遊びながら楽しくコミュニケーションスキルや人間力を鍛える場を提供できないか」と目を付けたのが、放課後時間。実は学童保育で過ごす平日の放課後や長期休暇等の時間を合計すると、学校にいる時間よりも長いというデータもある(「全国学童保育連絡協議会 学童保育の実施状況調査(2014年)結果」より)。同校では現在、小学1年生から3年生までの児童50名が、学童タイムに提供されるさまざまなプログラムを楽しみながら、社会を生き抜く力をはぐくんでいる。
500を超える多彩なプログラム
同学童の特徴は、何といっても500を超えるという充実したプログラム。月15回は外部講師を招き、毎回ワクワクするような体験を通じて、座学だけでは身に付きにくい子どもの考える力やコミュニケーション力を伸ばすのが狙いだ。
例えば「デザインとコミュニケーション」のプログラムでは、第一線で働く現役デザイナーが講義を務めた。子ども達は「爽やかな飲み物は青系のパッケージ」などの具体例から色に込められた意味を学び、最後はさまざまなマークや図柄を色で意味づけする課題にチャレンジ。また「統計学入門」では、「大きな鍋で作ったカレーでもスプーン1杯で味見ができる」と、統計の基礎を小学生にも分かるようかみ砕いて説明。その後、学童施設周辺で通行人を年齢別にカウントし、日本の人口ピラミッドと整合性が出るか? というフィールドワークを行った。
講師は当初、高橋代表が広告マン時代に得たコネクションなどを通じ集めていたが、講師がまた別の講師を紹介するなど縁が広がり、年々プログラムの種類が充実。翻訳家が担当する英語のコミュニケーション講座や、ランニングコーディネーターによる速く走る講座など、大人でも興味をそそられる内容が多数。料金は月額で、週1回利用の1万3000円から週5回の4万7000円と公立学童と比較すると決して安くはないが、見学会後の保護者からは「とにかく楽しそう!」との声が多く聞かれ、中には「この学童に入れるのであれば引っ越してきます」という人もいるそうだ。
後編では実際に子ども達がプログラムを楽しむ様子をレポートする。