初心に返してくれるあのトレード

「夏が来~れば思い出す~、遥かな尾瀬遠い空~」。この時期になると私が思い出すのは尾瀬ではなく、初心者時代のあのトレード。そのことを思い出すとき、私は初心に返ることができる。いわばFXの原体験。それは2003年7月末、ドル円をほぼその年の最高値に近い120.10銭でロングにしたときのことだ。自分はちょうどその1ヶ月前にFXデビューしたばかりで、ビギナーズラックで、ドル円とユーロドルの取引により当初の1カ月間は約40万円程度の利益を出していた。

しかし、マーケットの神様は初心者の私に「FXは決して簡単ではないぞ!」という洗礼を与える。ドル高は反転して円高となり、05年1月末には101円台をつけた。生まれて初めて追証(追加証拠金)を経験し(しかも数回)、並々ならぬ精神的苦痛を味わった。もちろん資金にも限界があったから、一体どういう処置を取るべきか大いに悩んだ。120円→101円であれば、200万円近い損失になる。もうここまで来てしまえば、損を切ることはできなかった。

もうなす術もない……。しかし、幸いにも101円台からドル円は反転の兆しを見せ初め、その年末121.10で売って、2年半分のスワップと10万円のキャピタルゲインを上げることができた。しかし、2年半も味わわされた地獄は、利益という代償を持ってしてもまったくわりになど合わないことを思い知らされ、それ以来、取引単位を1万に変更、ストップロスもきっちり入れることで自分の取引ルールを確立した。

投資は、余裕資金で行うのが王道だ。最初に投資できる金額を決めておくこと。昔の日本の米相場の格言に、「いのち金には手をつけるな」というのがある。「いのち金に手をつけるな」とは、生活に必要な資金までつぎ込んで投資をすると成功できないことを戒めている。

私はこのとき、外貨MMFを仕方なく解約した。FXの追証のために外貨MMFを解約なんて馬鹿げていると思ったが、生活に必要な資金に手をつけてしまうわけにはいかなかった。当然こうなると、自分の生活全体が後ろ向きになってしまう。この含み損を取り返そうと新たなポジションを張ることすらもできないのだ。

FXでは、投資金額のうち、1回の取引で許容できる損失もあらかじめ決めておくべきだ。私は損失を実金額で意識した方がよいと思う。いくらだったら損をしていいか、という方が実感しやすいからだ。だからレバレッジが低くても、耐えられないような金額で損を出したらいけない。具体的な金額で決めた方が、資金管理がしやすくなると思っている。

相場は定石通りではない

120.10のポジションを持ったとき、自分は、トレンドはドル高方向と見ていた。大抵の本には、為替で最も大事なのは、「トレンド」だと書かれていたからだ。為替相場では、トレンドが出るとある一定の期間は一方方向へ動く傾向があると。そして、一定の方向があるときに逆のことをすると大きな損失になるケースがあると。ヨシ、じゃあこれに乗って行けばよいのだな、と思った。

大きなトレンドが出たらそれについて行くのは正しい。しかし、今までは順張りであったチャートが、突然逆張りに転じたりすることもある、ということをこのときに経験した。単に順張りだけが良いと盲信してはいけないと。正直なところ、今でも、利益を上げるのに、順張りが良いのか、逆張りが良いのかはっきりとはしない。

ただ、相場の世界は何が起こっても不思議ではない、という点からいえば、ストップロスは必ず入れる。これだけで、大きな損失は避けられるというものだ。利益の前に、損失ありきで考えるべきだ。

私は、この塩漬け期間中に、「いつかは相場が自分の思っている方向へ向かうだろう」という希望的観測を持っていた。幸いにしてそれは戻ってきた。だが、この考え方は危険だ。保有する時間が長ければ長いほど、時間的に大きなリスクを背負っていることになるからだ。

相場には休むことも必要

いくら為替市場が24時間オープンしているといっても、のべつ幕なしにトレードしていたら、段々と集中力や警戒心が希薄化し、最終的には良いトレード結果を生まないことが考えられる。取引回数やトレードの時間を絞ることも大事だ。頻繁に取引しなくても、大きな波の動きさえ意識してじっと我慢して待っていればよいのだ。中途半端なところでエントリーしたり、エグジットしたり、そしてまた、スグに新たなポジションを持ってしまうということは避けたい。

ときには相場から離れて、冷静に市場を眺める余裕も必要だ。判断に迷うときには、何もしないという賢い選択もある。これを相場の格言では、「休むも相場」と教えてくれている。折りしも、世間は夏休み真っ盛り。せめて夏季休暇の間だけは相場のことを忘れてみたらいかがだろう。ただ、忘れてならないのはストップロス。ポジションを持っている方はお忘れなく!