FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。今回は「オージー・バブルの破裂」を解説します。

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オージー(豪ドルの通称)円が、パリバ・ショックでも、ベアー・スターンズ・ショックでも、すぐに反発に転じ、「夢の100円」に復帰したのは、原油相場の上昇が続き、代表的な資源国通貨であるオージーにプラス要因となったことが大きかったでしょう。

その原油、たとえばWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は、繰り返される「ショック相場」を尻目に、2008年に入ると100ドルの大台を超えて、上昇に一段と弾みがついたのです。瞬く間に、次の大台である150ドルも視界に入るところとなりました。

株安、リスクオフが広がり、米国を含めた先進国の景気が悪化する中で、需要が縮小しているはずなのに、なぜ原油相場は高騰しているのか。この先進国景気と原油相場の「デカップリング(かい離)」は、中国を始めとした新興国の台頭によるところが大きい。その意味では、原油高はおかしくない、といった新説が「デカップリング論」でした。

  • 【図表】WTIと米鉱工業生産(2000~2009年)(出所:リフィニティブ・データよりマネックス証券が作成)

    【図表】WTIと米鉱工業生産(2000~2009年)(出所:リフィニティブ・データよりマネックス証券が作成)

またちょうどこの頃、ある大手の米系投資銀行の以下のようなレポートが話題になりました。「原油は有限な資源であり、このままでいけば近い将来足りなくなる可能性がある。最近の原油価格高騰は、それを織り込んだ動きであり、さらに200ドルまで上昇する可能性もある」。

しかし、このレポートが話題になってから間もない2008年7月、WTIは150ドルの大台手前で頭打ちになると、一転して暴落に向かったのです。そして、代表的な資源国通貨のオージーも、まさにそんな原油相場の暴落に連れる展開となったのです。

オージー・ショックの「真相」

前にも書いたように、オージー円は、2008年9月のリーマン・ブラザーズが破綻する前の7月から下落が始まりました。これまで見てきたことからすると、それは原油相場が天井を打って、下落に急転換したことが大きかったでしょう。

そして原油相場は急落から暴落、さらには大暴落となりました。7月に150ドル近くまで上昇していたWTIは、年末には40ドルを割りました。たった半年間で100ドル以上の歴史的大暴落となったのです。

あの、100ドル超の原油相場を正当化した「デカップリング論」や「原油有限説」は一体何だったのでしょうか。とはいえ「バブル」のケースは、えてしてこのような感じですが。循環的な相場の動きの説明が苦しくなると、構造的な変化だとか、新時代といった具合に、あえて「難しい説明」をしようとする傾向があります。「行き過ぎ」といった「簡単な説明」はしないのです。

似たようなことが、後で書くことになるITバブル崩壊のケースでもありました。きっとそれは、プレッシャーの影響が大きいと思います。「上がり過ぎといっても、現に上がっているじゃないか。この現に上がっている理由が説明できず、『行き過ぎ』と言われて納得できるか!!」なんて言われるかもしれないと思ったら、「新時代です!」と言いたくなる気持ちも分からなくないですよね。それが人間というものでしょう。

しかし、それでは「バブル破裂」といったとても重要な転換点の予想などできません。「行き過ぎ」ですよ、「間違い」ですよ、「王様は裸ですよ」といった具合に、客観的根拠をもとに指摘できるかが、専門家の分析能力の真価なのでしょう。

今から見ると、この2008年7月にかけての原油相場の高騰は、住宅や不動産などの資産バブルの一つだったのでしょう。そして代表的な資源国通貨であるオージーは、「原油バブル」の影響を強く受けたと考えられます。そのため、原油バブル破裂といった動きが広がる中で、オージーは、他の通貨以上に下落に歯止めがかからなくなっていったということでしょう。

それこそが、リーマン・ショックにおけるFX最大事件ともいえる「オージー・ショック」の「真相」だったのではないでしょうか。