外国為替証拠金取引に関わらず、金融取引をするうえでコストは重要な問題だ。たとえば投資信託。購入手数料と信託報酬だけで、最初の1年間のコストが6%に達するようなファンドがある。もちろん、「1年で20%、30%というハイリターンを実現できれば、6%のコストなんて大したことはない」というおおらかな人もいるだろうが、その考え方は間違っている。毎年30%のリターンが実現するならば話は別だが、そのようなリターンを継続できるファンドなど存在しない。

実際、ここ数カ月の下げで、これまで蓄積してきたリターンを一気に吐き出してしまったファンド(ヘッジファンドを含む)は少なくない。せいぜい安定的に継続できるリターンなど、平均して年8%程度のものだろう。そこで6%のコストが取られるというのは、いかにも割高だ。

しかし、逆に安すぎるコストにも、いささかの警戒感を持って見た方が良いだろう。FXのなかには、為替手数料が無料で、しかもスプレッドさえゼロというところがある。

FX会社の収益源は2つ。ひとつは通貨の売買にかかってくる為替手数料であり、もうひとつは売りレートと買いレートの間に存在しているスプレッドだ。大半のFX会社は、為替レートを提示するに際し、「2Wayプライス」という方式を採っている。これは、売値と買値を同時に提示するものであり、その差がFX会社の収益になっているわけだ。

そこで先の疑問に行きつくわけだが、どうして為替手数料もスプレッドも無料にして、そのFX会社は経営を存続できるのだろうか。

そう考えると、「ちょっとおかしいのではないか」と誰でも気がつくはずだ。 ひょっとしたら、私には思いもつかないような収益源があるのかも知れない。でも、私はこう考える。

「おそらく、為替手数料もスプレッドも無料にしているFX会社は、自社でポジションを持っているのではないか」と。

これなら納得がいく。つまり、顧客から為替手数料もスプレッドも取らない代わりに、FX会社自身が自己ディーリングで収益を稼ぐというビジネスモデルだ。しかし、これはかなりきわどい経営ともいえるだろう。何しろ、会社の業績がマーケットの動向に直結するのだ。最近のように、マーケットの乱高下が続くような局面で大きな損失が発生し、会社が 飛んでしまうリスクが高い。 そうなれば、顧客が預けてある資産がきちっと保全されるのかどうかという問題も浮上してくる。

前回、リーマンブラザーズの破たんとその影響について説明した時にも触れたが、基本的にFX会社は、顧客から受けた注文に対するカバー取引を行うことで、為替変動リスクに対してニュートラルなポジションを取っている。ところがディーリングで稼ぐということになると、今度はカバーすらしないところも出てきかねない。ますます経営リスクが高まってしまう。

為替手数料ゼロ、スプレッドゼロは決して歓迎すべきことではないのだ。それを頭に入れたうえで、FX会社を選ぶべきだろう。

JOYnt代表 鈴木雅光氏プロフィール

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。