不景気になると詐欺が流行る。詐欺といっても幅広いが、ここで取り上げたいのは、資産運用に絡んだ詐欺事件だ。

警察庁の調べによると、2008年の資産形成事犯(資産運用に絡んだ詐欺事件のこと)の被害額は、過去最高の1579億7406円に上った。

景気が悪くなると、この手の金融詐欺が流行るのには、根拠がある(と筆者は少なくとも思っている)。というのも、景気が悪くなると、景気を浮揚させるために低金利政策がとられるとともに、企業業績の悪化を反映して株価が下落トレンドに入っているため、「運用難」になっているからだ。預貯金など金利ものに預けてもダメ、株式関連商品を購入してもダメということで、多くの個人は少しでも有利な条件で運用できる金融商品を探すようになる。そこへ「確実に高いリターンが得られますよ」というセールストークで、詐欺的な運用商品が入りこんでくる。

今年に入ってからも、資産運用を騙った詐欺事件が幾度となく起こった。なかでも、ここ数年で個人投資家の間に広まったFXを利用した詐欺事件が頻発している。

たとえば、大阪を拠点にしていたアライド、札幌を拠点にしていたオールインなどがそれだ。両社とも、高い配当利回りを確約したうえで、個人投資家から資金を集めた模様だ。集めた資金の総額は、アライドが約20億円、オールインが約100億円と言われている。本来、FXは個人が自分の判断で通貨ペアや売り買いの別、タイミングなどを判断してトレードする商品のはずだが、これらはいずれも「お金さえ預けてくれれば、あとはこちらで運用して配当金をお支払いしますよ」というスキームを用いていた。

そもそもFXはリスクのある商品であり、確実に高い配当金を継続的に支払うことは難しい。それは、実際にトレーディングを経験したことのある人なら、誰でも分かるだろう。今まで、何度となくFXに挑戦したものの、なかなか利益が上がらない、利益を得るどころか損失を被ってばかりいる……。そういう人たちのなかには、自分のトレーディング能力に疑問を抱いているはずだ。その弱みに付け込んだことが、今回の事件につながった。

詐欺を目論んでいる連中は、「どういう売り口上を並べ立てれば、多くの人が興味を持ってくれるだろうか」ということを常に考えている。ここ数年、FXの人気が非常に高かったということもあり、FXを売りものにした詐欺を考えるのは、当然のことだろう。この傾向は、今後も続く恐れがあるので注意したいところだ。

他にも、詐欺とは言わないまでも、果たしてそのような仕組みは利益相反という観点でいかがなものだろうか、と疑問を感じずにいられないような投資顧問業者は存在する。たとえば、個人投資家が過去の運用実績を見て運用者を選び、その人の運用成果に応じてリターンが得られるという仕組みのシステムを提供している業者もいるが、問題は、運用者がどういう形で収益を得ているのかということ。これをよく考えると、お金を預けている個人にとって、本当に有利なシステムなのかどうかという点に疑問が生じる。

どういうことかというと、この手のシステムで、個人から委託を受けて運用している運用者に対するフィーは、売り買いによって入ってくる手数料の一部が還元される仕組みになっているのだ。つまり、運用者が高速回転売買をすればするほど、運用者のところに手数料が入ってくることになる。

必要に迫られて売り買いするのは仕方のことだが、この仕組みで考えると、運用者は顧客の有利・不利に関係なく、どんどん売り買いを繰り返せば、それだけ自分のところにフィーが入ってくる形になる。よほどモラルの高い運用者ならともかく、モラルの低い運用者なら、自分のところに入ってくるフィーを少しでも増やすため、高速回転売買を繰り返す恐れがある。運用者と顧客との間に、利益相反が生じる恐れがあるというのは、こういうことだ。

同じ一任勘定型でも、システムトレードであれば、事前に売買回転数が多いか少ないか、どのような運用スタイルなのかといったことが開示されているため、仮に高速回転売買が行われたとしても、顧客側がそれを理解したうえで選択したことになるが、人を介した裁量型の一任勘定運用の場合、常に利益相反の恐れがつきまとうことには注意した方が良いだろう。

執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。