「現代の若者は車離れが加速している」といった話も聞きますが、1970年代のスーパーカーブームで育ったミドル世代としては、憧れの車種がひとつやふたつあるものです。そこで本連載では、ミドル世代が「いまコレに乗りたい!」と思うような四輪自動車について、新旧を問わず紹介していきます。

今回紹介するのは、WRCの初代王者に輝いた仏アルピーヌの「A110」です。

  • 仏アルピーヌの「A110」

チューニングショップとして誕生したアルピーヌ

仏ルノーの販売店を営むと同時に、レーシングドライバーとして数多くのレースに参戦していたジャン・レデレ氏。そんな経歴を持つ同氏が、1955年にチューニングショップとして設立したのが仏アルピーヌでした。

アルピーヌでは、ルノーの小型乗用車である「4CV」のコンポーネンツに、FRP製の小型軽量ボディを載せたマシンでレースに参戦。堂々のクラス優勝を果たし、翌年に同社初の市販モデル「A106」として製造を開始しました。

その後、ルノーの新型車である「ドーフィン」をベースとした「A108」を開発。そして1962年に、ルノー「R8」をベースとしたアルピーヌの代表的モデル「A110」が誕生したのです。

回頭性に優れた軽量ボディと流麗なデザインがファンを魅了

1.1Lエンジン搭載のA110「A110 1100」では、A108の時代に新設計され、以降アルピーヌのスポーツブランドに脈々と受け継がれることとなる鋼管バックボーンフレームを採用。このシャシーとFRP製ボディの組み合わせは、ベース車両のコンポーネンツが持つポテンシャルをさらに引き上げました。

RR(リアエンジン・リアドライブ)レイアウトから生み出されるトラクション性能、それを最大限に活かしきる軽量ボディと足回り、さらには空力を意識した流麗なフォルムが、車好きの心を魅了したのです。

A110の快進撃を加速させたゴルディーニエンジン

そしてもうひとつ、アルピーヌにとって大きな転機となったのが、当時エンジンチューニングの天才として名をはせていたアメデ・ゴルディーニ氏との邂逅でした。

アルピーヌでは1965年、R8の高性能モデル「R8ゴルディーニ」に搭載されていたゴルディーニ氏の1.1Lチューニングエンジンを、A110の最上位モデルに採用(A110 1100ゴルディーニ)しました。

さらに、ゴルディーニエンジンの進化と共に生まれた1.3Lエンジン搭載の「A110 1300S」が、1968年のフランス国内選手権でタイトルを獲得。同時に、国際ラリー選手権でも好成績を収めるようになっていったのです。

ポルシェ911を退けてWRCの初代王者に輝いた実績

アルピーヌは1970年に、1.6Lエンジン搭載の「A110 1600S」を「ERC(FIA European Rally Championship:欧州ラリー選手権)」に投入。独ポルシェの「911」など大排気量車種が目立つ中、600kg台の軽量かつ高剛性なボディと138馬力エンジンの組み合わせで、見事に年間タイトルを獲得します。

そして1973年、FIA(国際自動車連盟)が世界各地で開催されていたラリーレースを一本化した「WRC(FIA World Rally Championship:世界ラリー選手権)」がスタートしました。

アルピーヌは、このWRCに1.8L 175馬力エンジン搭載の「A110 1800」を投入し、記念すべき1戦目「第42回 ラリー・オートモービル・モンテカルロ」で表彰台を独占。A110の快進撃はその後も続き、アルピーヌがWRCの初代マニュファクチャラーズ・チャンピオンに輝いたのです。

新型A110へと受け継がれた熱い思い

このように、レースに勝つために生まれ、ラリー競技の最高峰まで登り詰めたA110は、世界中のモータースポーツファンを魅了しました。当時の車両を入手するのは少々難しいかもしれませんが、ルノーグループとして2018年から新型アルピーヌA110の販売が開始されたのは嬉しいところです。

  • 2018年から販売開始された「新型アルピーヌA110」

こちらは現代風にアレンジされたインテリアやエクステリア、RRからMR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)になった駆動方式など変更点はありますが、その根底にある"勝つための走り"を生み出すコンセプトは脈々と継承されています。気になる方は、ぜひ進化したA110の走りを体感してみてください。