世界エンタメ経済学(68) 売り上げ新記録樹立!　全世界を驚かせたビヨンセの奇襲作戦とは

『Beyoncé』収録の17本のビデオはYouTubeで30秒バージョンが公開されている

「そのうちに出るんだろうな」くらいに思われていたビヨンセの新作アルバム『Beyoncé』が先週金曜日（米国時間13日午前0時）に突然リリースされた。前宣伝もまったく無しで、iTunes限定、しかもアルバムのみでの販売と、異例ずくめのリリースとなったが、それでも発売から3日間のダウンロード数は全世界で82万8773回（そのうち米国が61万7000ダウロード）に達し、iTunesでの週間売上で過去最高を記録（これまでの1位はテイラー・スウィフトの『Red』で、7日間で46万5000回ダウンロードされていたという）。「さすがにビヨンセ」「世界的に知られたディーバにしかできない離れ業」と賛辞を贈らずにはいられない滑り出しとなったようだ。

[BEYONCÉ 14 songs . 17 videos]（リリース告知のビデオ）

『Beyoncé』のリリースやその後の売れ行きなどについては、Wall Street JournalやBloombergといった経済紙/ニュース、それにテクノロジー系の有力ブログ The Vergeなどでも採り上げられている。このことからも、このサプライズ・リリースがかなり大きな衝撃だったことが伺われる。また直近では、大手量販チェーンのTargetが『Beyoncé』の「iTunes限定先行リリース」にヘソを曲げて、20日に発売されるCD版アルバムの販売を拒否、などという話も伝えられているが、これなどすっかり経済ニュースの範疇といえそうだ。

"Self-Titled" Part 1 . The Visual Album
（どうしてこういうリリースの形を採ったのか？等々について語るビヨンセ）

大物アーティストによる新作リリースといえば、最近では「入念な準備」あるいは「手の込んだ仕掛け」があって当たり前といった状況になっているように思う。春先に『THE 20/20 EXPERIENCE』をリリースするまでのジャスティン・ティンバーレイクの例を挙げると、『サタデー・ナイト・ライブ』にMCとして登場したり、NBCの『Late Night』に5夜続けてジミー・ファロンと共演してみたり、あるいは「SxSW」（エンターテイメントとテクノロジー系のネタが同居しているイベント）あたりまででかけてライブを敢行したりしていた。また、初夏に『Magna Carta...Holy Grail』をリリースした夫のジェイ・Zの例を思い出す人もいるかもしれない。

JAY Z "Picasso Baby: A Performance Art Film"

Billboardのアルバムチャートで今年の年間売上枚数1位となった『The 20/20 Experience』の第一週の売上が100万枚弱、それに対してサムスンとのコラボCMをNBAファイナルのテレビ中継中に流して話題作りをした『Magna Carta...Holy Grail』のほうは第一週の売上が50万枚ちょっと……そうした身近な人たちの例を目にしたビヨンセが、『Beyoncé』リリースにあたってどんなことを考えたのかという点はとても興味深い。

なお、今回のリリースのように、サプライズ（奇襲攻撃）で一気に注目を集めるか、それとも早くからリリースを告知したほうがいいのか（売上に結びつきやすいか）という点に興味があってしばらく調べてみたのだけれども、結局どちらがいいのかはよくわからなかった。中・長期的にみれば、作品の「中身の善し悪し」も大きく関係するはずであるから、一概にどちらがいいとはいえないのも当然かもしれない。ただ、Instagramだけでフォロワーが800万人もいるビヨンセのことなので、そういう各種のソーシャルメディアをうまく活用して、「広告・販促費はアルバム・リリース後までとっておいたほうが得策」という業界関係者の考え（WSJへのコメント）には妙に納得させられるものがある。