記録ずくめの新年相場 - 経済回復の長期トレンド反映
2018年の日本経済は順調なスタートを切りました。年明け1月4日、大発会の日経平均株価は741円高の大幅高となり、大発会としては1996年以来22年ぶりの上昇幅となりました。翌5日も208円高の2万3,714円となり、1992年1月6日以来26年ぶりの高値をつけました。年明けの2日連続上昇は8年ぶりで、記録ずくめの新年相場です。
年明けの株価上昇は、正月休みの間に米国で良好な経済指標が発表されて株価が史上最高値を連日更新したことが直接の要因です。しかしこれは単に「米国に連動して日本も上がった」というものではなく、すでに昨年秋から株価上昇が鮮明になっていました。本連載の11月8日付(第93回・「小池劇場」失速の本当のワケと日本経済の行方(中) ――株価の26年ぶり高値の意味するものとは)で「株価は長期トレンドで本格的上昇局面に入った」と指摘した通りです。そしてそれは、日本経済が長年の低迷から抜け出して本格回復に向けて動き出したことを反映しているのです。
日本経済がどこまで回復しているか、いくつかデータを見てみましょう。前述の記事では有効求人倍率や失業率、過去最高益の企業業績などを例に挙げましたが、これらのデータはその後さらに改善しています。
有効求人倍率は、前述の記事掲載時には1.52倍(2017年9月)でしたが、10月は1.55倍、11月は1.56倍となっています。これは、1974年1月以来、実に約44年ぶりの高水準です。このうち正社員の有効求人倍率も1.02倍(9月)から、1.03倍(10月)、1.05倍(11月)と上昇を続けています。
有効求人倍率でもう一つ注目されるのは、都道府県別のデータです。全国では前述のとおり11月が1974年1月以来の高水準だったのですが、その時は14の道県では1.0未満にとどまっていました。バブルのピーク時(全国で1.46倍=1990年7月)でも6道県は1.0未満のままでした。しかし現在はすでに2016年6月に全都道府県で1.0を超え、同年10月から1年以上にわたって全都道府県で1.0以上が続いています。これは統計開始以来初めてのことです。
つまり雇用は全国平均で良くなっているだけでなく、地方でも改善が進んでいることを示しています。よく「大都市と地方の格差」が言われますが、雇用についてはむしろ格差は縮小しているとさえ言えます。あくまでも有効求人倍率の数字を見る限り、ということですが、雇用は歴史的な高水準に達しているのです。雇用情勢というのは私たちの生活に密接に影響するものです。それが、これほどに良くなっているということは、もっと認識されていいように思います。
中小企業にも景気回復が波及
雇用が改善したのは、企業活動が活発化して多くの人手を必要とするようになったからで、企業の業績も好調が続いています。日銀が昨年12月に発表した日銀短観(全国企業短期経済観測調査)によりますと、企業の総合的な景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業・製造業でプラス25で、2006年12月以来の高水準となりました。このDIは「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数値で、プラス幅が大きいほど景況感が良いことになります。
大企業だけではありません。12月の中小企業・製造業のDIはプラス15でした。これはなんと1991年9月以来26年3カ月ぶりの高水準で、バブル期に近づいているのです。大企業より低い水準ながら、長期的推移では中小企業の改善ぶりがはっきりしていることがわかります。景気回復の効果が中小企業にも着実に波及していることを示しています。
前述の都道府県別有効求人倍率と合わせてみると、アベノミクスによる景気回復は従来の景気回復局面と違って、経済のすそ野を広げていると言えます。
このような観点から考えると、2018年はデフレ脱却と景気の本格回復を確認する年になりそうです。そうした経済の実態からみれば、今年の日経平均株価は2万7,000円程度まで上昇する可能性は十分にありますし、場合によっては3万円が視野に入ってもおかしくないでしょう。
もちろんそれが一本調子で実現するわけではありません。世界を見渡せば懸念材料にあふれています。日本の目の前では北朝鮮情勢が緊迫の度を増していますし、米国のトランプ政権も不安定化が経済にマイナスの影響を与える心配があります。英国のEU離脱交渉の遅れ、ドイツのメルケル首相の指導力低下、スペイン・カタルーニャ独立問題、それに中東情勢、拡散するテロの脅威など、様々なリスクに注意が必要です。
これらの情勢の展開によっては株価が急落したり不安定な動きになる可能性があります。しかしそれでも、以前に比べて日本経済は粘り腰の力がついてきています。楽観は禁物ですが、過度に悲観論になる必要はないと思います。
2018年日本経済の4つの注目ポイント
今年の日本経済に影響の大きい注目ポイントとしては、第1に当面は北朝鮮情勢です。ただ、年明けになって緊張がやや和らぐ兆しが出てきました。金正恩委員長が平昌五輪の参加に前向きな姿勢を示し南北会談が開かれる見通しとなりました。これが日米韓を分断しようとする北朝鮮の思惑なのか、本当に事態打開につながるのか、まだ予断は許さない情勢です。
第2は米国のトランプ大統領の動向です。米国も経済自体は好調で、内部要因としては大崩れする可能性は極めて小さいとみられますし、年末には法人税引き下げを柱とする税制改革が決まり、これも景気にプラスとなります。しかし何と言ってもトランプ大統領がかく乱要因となりかねませんし、ロシア疑惑の行方が焦点で、11月の中間選挙に向けて政治的対立や駆け引きが激化することが予想されます。これが経済にとってマイナスになり株価に波乱を起こすリスクを抱えています。
第3は、日米の中央銀行のトップ交代(?)です。米国ではFRB(米連邦準備理事会)の議長が交代します。現在のイエレン議長が2月で任期切れとなり、後任議長にはパウエル氏(FRB理事)が就任する予定です。FRBは米国の中央銀行として金融政策を担っており、そのトップである議長の手腕が経済の行方を左右すると言ってもいい存在です。ただパウエル氏はイエレン議長と同じく、金利引き上げを緩やかに進める考えを表明しています。したがって大きな変化はないと見られますが、常にウォッチする必要があります。
日銀も黒田総裁が今年4月に任期満了を迎えます。黒田総裁は5年前の2013年3月に就任した直後に量的緩和に踏み切り、以来、安倍首相のアベノミクスと歩調を合わせて金融緩和を推し進めてきました。それだけに後任人事が注目されています。日銀総裁は首相が指名して国会の衆参両院の同意を得て就任する仕組みで、今のところ最有力は「黒田氏」とうわさされています。ほかに何人かが後任候補の下馬評に上がっていますが、安倍首相が間もなく決めるとみられます。
第4は、政治情勢です。安倍首相は9月30日に自民党総裁の任期(2期目)が満了します。安倍首相は3選を目指すことはほぼ確実でしょう。その頃の政治情勢はどのような展開になるかが注目です。今のところ3選の可能性は高いとみられ、安倍政権の安定が続けば経済にとってプラス要因です。ただ、もし安倍首相の支持率が低下したり政権運営が不安定になれば株価や景気にはマイナスとなるでしょう。
なお総裁選の後には、消費税の10%への引き上げを最終決定するかが焦点となりそうです。10%への引き上げは2019年10月から実施することになっていますので、2019年度予算を編成する今年12月までに最終決定する必要があります。安倍首相は消費増税をこれまで2度延期していますが、次についてはすでに消費増税を前提に幼児教育の無償化などの方針を打ち出していますので、さすがに延期の可能性は小さいとみられます。
ただデフレ脱却を最優先とする安倍首相の基本戦略から考えれば、確率は低いでしょうが、経済情勢や政治情勢によっては3度目の延期の可能性もゼロではないと予想しています。一応、念頭に置いておくといいいでしょう。
いずれにしても、これらの情勢の展開によっては株価が急落したり不安定な動きになる可能性があります。しかしそれでも、以前に比べて日本経済は粘り腰の力がついてきています。楽観は禁物ですが、過度に悲観論になる必要はないと思います。
執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)
1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。
オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」
オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」