世界中が注目したフランス大統領選の第1回投票は、独立系・中道で「EU統合強化」を主張するエマニュエル・マクロン氏が1位、「反EU」を掲げる極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏が2位となり、両氏が5月7日の決選投票に進むことになりました。EU離脱の大波は何とか食い止められ、ひとまず安堵感が広がっています。

フランス内務省が発表した最終集計によると、1位のマクロン氏の得票率は24.01%、2位のルペン氏が21.30%でした。続いて3位が共和党(中道右派)のフランソワ・フィヨン氏で得票率は20.01%、4位が左翼党(極左)のジャンリュック・メランション氏で19.58%でした。

フランス内務省集計による得票率

4位となったメランション氏はルペン氏とは正反対の極左ですが、ルペン氏と同様に「反EU」を主張、選挙戦の終盤で支持を急速に伸ばしたため、「ルペン氏とメランション氏が決選投票に進む」との"最悪のシナリオ"が浮上していました。もしそうなれば、決選投票でどちらが勝っても反EUの大統領が誕生することになったわけで、昨年の英国EU離脱、トランプ大統領誕生に続く"3度目のまさか"となるところでした。

フランス大統領選の行方は?

しかしそうした最悪の事態は避けられ、マクロン氏が1位となりました。マクロン氏は39歳と主要候補の中で最も若く、財務省や金融機関勤務などを経て、現職のオランド大統領(社会党)の下で昨年まで経済産業相をつとめていました。しかし支持率が低下したオランド大統領に見切りをつけて社会党を離党し、新しい政治グループ「前進!」を創立して大統領選に立候補したという経歴の持ち主です。選挙戦ではルペン氏を強く批判して「EU統合強化」を主張し支持を集めました。

これまでの世論調査では、決選投票になった場合の支持率はマクロン氏がルペン氏を大きく引き離しています。第1回投票後には、2位となった共和党のフィヨン氏と5位となった社会党のアモン氏がいち早くマクロン氏支持を表明したことも支援材料で、決選投票はマクロン氏が優勢と見られています。

こうした結果をうけて、24日の株式市場では日本から始まって、欧州、米国と株価が軒並み大幅上昇しました。特に上昇が大きかったのがフランスとドイツの株価で、フランスの代表的な株価指数であるCAC40は1日で4%以上の上昇率となり、2008年1月以来、9年3カ月ぶりの高値を付けました。ドイツのDAX指数は3.4%上昇し、過去最高値を更新しました。また為替市場ではユーロが大幅上昇しました。

各国の株価は軒並み大幅上昇。フランスのCAC40指数は1日で4%以上の上昇率

世界の金融市場はこのところ政治リスクに敏感になっていただけに、少し落ち着きを取り戻した様子です。しかしこれですべて安心というわけにはいきません。問題点やリスクが3つあります。

フランス大統領選がもたらすリスクとは?

第1は、それでも反EUの機運は収まりそうにないことです。今回の選挙で「反EU」を掲げて戦ったルペン氏とメランション氏の得票率を合わせると41%に達しており、そのほかにも「反EU」候補がいましたので、それらも含めれば50%近くは「反EU票」と見ることができます。それらが決選投票でルペン氏に集まれば、予断を許さない情勢になるかもしれません。

フランスだけではなく、欧州ではイギリスが急きょ総選挙が実施されることになり、9月にはドイツで総選挙が予定されています。またイタリアでも来年に予定されている総選挙が今年に前倒しになる可能性があり、いずれも「新EUか「反EUか」が争われることになります。今後の展開次第では反EU機運が高まる恐れもあります。

第2は、政治不信の広がりです。フランスでは長年にわたって共和党(前身も含む)と社会党の2大政党が政権交代によって政権を担ってきました。しかし今回の第1回投票で共和党のフィヨン氏は3位、現政権与党である社会党のブノワ・アモン氏は5位で得票率がわずか6.36%と言う結果に終わりました。このため2大政党の候補がともに決選投票に進めないという異例の展開を見せています。

これはフランスの有権者が既成政党と政治家に「NO」を突き付けたとも言えるわけです。この構図は欧州の他の国や米国でも共通しており、それがまた反EUムードとポピュリズム(大衆迎合主義)の拡大につながっているのです。イギリスのEU離脱もトランプ大統領の誕生も背景は同じです。

第3は、フランス経済の低迷が続いていることです。欧州ではリーマン・ショック後の債務危機拡大などで全般的に経済が低迷傾向にありますが、それでも最近は緩やかながら景気回復の動きを見せるようになっています。しかしその中にあってフランス経済は依然として弱さが目立っているのが実情です。

たとえば失業率を見ると、EU全体の平均では一時は11%を超えていましたが、今年2月には8.0%まで低下してきました。しかしフランスの失業率は10%程度で高止まりしたままで、イギリスやドイツとの差が拡大しています。このような経済状態に対するフランス国民の不満が、移民排斥や反EU、そして政治不信に結びついているのです。

欧州の失業率。フランスの失業率は10%程度で高止まり

これもまたフランスに限ったことではありません。フランスよりはるかに失業率が低いイギリスでもEU離脱決定に至ったわけですし、同じく失業率が4.5%まで低下している米国でもトランプ大統領を誕生させました。このことは、経済面での不満が政治を良くも悪くも大きく動かしていることを示しています。

したがって反EU、反移民の流れを止めるうえでも、経済の立て直しが急務なのです。言うまでもなくフランスはドイツと並んでEUの中軸です。マクロン氏、ルペン氏のどちらが大統領になっても、フランス経済をしっかり立ち直らせることが何よりも求められています。

フランス大統領選が日本で今回ほど注目されたことは、これまであまりなかったのではないかと思います。それほど、フランス大統領選がEUの行方と世界の政治・経済にとって大きな影響をもたらす可能性があるのです。次の5月7日の決選投票を注目しましょう。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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