オランダ総選挙は極右が伸び悩む結果に

トランプ旋風が欧州にも波及するか注目されていたオランダの総選挙(下院選挙)は、「反移民」「反EU」を掲げる極右・自由党が伸び悩む結果に終わりました。欧州では今年、4月のフランス大統領選や秋のドイツ総選挙などを控えており、オランダ総選挙の結果によっては極右勢力やポピュリズム(大衆迎合主義)が一気に拡大するのではないかと懸念されていただけに、今回はひとまず安心感が広がりました。

オランダでは選挙前まで中道右派の自由民主党と中道左派の労働党が連立政権を組んでいましたが、極右の自由党が支持を伸ばし事前の世論調査では1位になっていました。同党のウィルダース党首は「国境を封鎖してすべての人をチェックする」など移民、特にイスラム系移民の排斥を主張、その過激な言動もあいまって「オランダのトランプ」とも呼ばれています。

よく知られているようにオランダは小国ではありますが、欧州大陸のほぼ中央に位置し、金融や物流などを中心に欧州経済の要の役割も果たしています。EUの創設メンバー国の一つでもあります。そのようなオランダで、もし極右政党が第1党となって政権に参加することになれば、その影響は欧州の政治経済を大きく揺るがすことになっていたところでしょう。

しかし選挙の結果、自由党の議席は選挙前の12から20へと大きく伸ばしたものの、第1党には手が届きませんでした。第1党だったのは連立与党の自由民主党で、従来の40議席から33議席へと後退したものの第1党の座を維持しました。

有権者が既存の政治に多くの不満を持っていることがわかったオランダ総選挙

極右の自由党が予想ほど躍進しなかったのは、"本家"とも言えるトランプ政権が入国制限の大統領令を出して国内外から批判を受けるなどで混乱していることが影響したためと見られます。その意味では、トランプ旋風に一定の歯止めがかかったと見ることができそうです。

ただ今回のオランダ総選挙の結果をもう少し詳しく見ると、懸念すべき傾向も浮かび上がってきます。第1党の自由民主党とともに連立与党を組む労働党は35議席から9議席へと壊滅的な敗北を喫し、連立与党2党の議席数合計は75から42へと大幅に減少しました。その一方で、自由党は伸び悩んだものの大幅に議席を伸ばしましたし、その他の野党も社会党を除いて大幅に議席を伸ばしました。

つまり有権者が既存の政治に多くの不満を持ち、事実上「ノー」を突き付けたと言えるのです。このことが、反移民や反EUへの一定の支持にもつながったわけで、ポピュリズムの流れが強まっていることを示しています。連立与党はこれまでの2党だけでは政権を持続できないため、さらに2党程度を加えた連立政権をめざすものとみられます。しかし野党各党も議席を伸ばして拮抗する少数政党分立の状態になっており、今後の政権運営は不安定になることが予想されています。

フランスでは極右政党が支持を拡大

オランダ総選挙に続いて、欧州で次に焦点となるのがフランス大統領選です。フランスでも極右政党の国民戦線が支持を拡大しており、同党の女性党首、マリーム・ルペン氏が世論調査で支持率トップを走っています。国民戦線は同氏の父親であるジャン=マリー・ルペン氏が1972年に創設した極右政党です。マリーヌ・ルペン氏は父のジャン=マリー党首の下で副党首を務めた後、2011年に同党党首に就任、その翌年2012年の大統領選に出馬して話題を呼びました。結果は第1回投票で3位でしたが、その後も支持を集めていました。

ルペン人気は、移民や難民の増加への反発と経済への不満が背景となっています。フランスはもともとドイツやイギリスに比べると景気は今一つで、失業率はEU加盟28カ国の平均を上回っています。最近はようやく欧州各国の失業率が低下傾向を見せ始めていますが、フランスの失業率は他の主要国に比べて低下幅がわずかにとどまっています。

ドイツやイギリスに比べると景気は今一つのフランス

しかしこうした経済状況が続く中、現在までのオランド政権(2012~2017、社会党)も、その前のサルコジ政権(2007~2012、共和党)も、経済改善に有効な手を打てていないのが現状で、その不満が極右への支持につながっているわけです。ここ1~2年、フランスでテロが相次いだことも、現政権への批判とルペン人気を加速させる要因となっています。

フランス大統領選には11人が立候補しており、ルペン氏のほかに独立系・中道左派のマクロン氏が有力と言われています。マクロン氏は現職・オランド大統領の社会党政権で経済産業相をつとめていましたが、社会党の不人気を見限り、昨年8月に辞任、「前進!」という新組織を結成して大統領選に出馬しました。39歳という若さでイケメンということもあって、無党派層の支持を集めています。

マクロン氏に続くと見られるのが中道右派のフィヨン氏(共和党)です。同氏はオランド大統領の前のサルコジ大統領の下で2007~2012年に首相を務めていた人で、一時は世論調査で支持率トップに立ったこともありました。

ところが今年1月末頃になって、同氏の夫人に勤務実態がないにもかかわらず公金で給与が支払われていたとの疑惑が持ち上がり、支持が急速に低下しています。この14日には司法当局が同氏を公金横領の容疑で訴追しました。同氏はこれまで無実を訴えて選挙戦から撤退しないと表明していますが、今後は一段と厳しい戦いを強いられそうです。

このことはルペン氏に追い風になるとの見方も出ています。右派の支持票がフィヨン氏から離れてルペン氏に流れるとの見立てで、そうなればルペン氏に有利というわけです。 現職与党の社会党からは前教育相のアモン氏が立候補していますが、上記3候補に比べると立ち遅れているようです。現職・オランド大統領の支持率が1ケタ台まで落ち込んで再選出馬を断念した経緯があり、その影響をもろに受けた形です。

フランスは長年にわたって共和党(その前身も含む)と社会党の2大政党で政権交代を繰り返してきました。その2大政党の候補者が現時点で3番手、4番手に甘んじている選挙戦になっていることは、それだけ既成政党離れが進んでいることを示しており、これも極右の伸長につながっているのです。

フランスの大統領選はまず1回目の投票が行われ、ここで単独で過半数を獲得した候補者がいなければ上位2者による決選投票が行われる仕組みです。1回目の投票日は4月23日で、現時点ではルペン氏とマクロン氏がトップを争うものの、いずれも過半数に達せず、両氏による決選投票になるという予想が有力です。そうなれば、2大政党以外の候補者で決選投票を争うという異例の展開となります。

フランス大統領選の主な立候補者

決選投票は5月7日行われる予定です。ここでは3位以下の候補者の支持票の動向が勝敗のカギを握ることになりますが、その場合は共和党、社会党など各党派が「極右の大統領阻止」で共同戦線を張って、マクロン氏が勝利するとの予想が優勢です。

しかし、昨年の英国のEU離脱をめぐる国民投票、米大統領選でのトランプ氏勝利と、事前予想は相次いで外れてきましたので、フランス大統領選も予想外の結果にならないとは限りません。トランプ大統領の勝利の陰に「隠れトランプ」の存在が指摘されていますが、実はフランスでも「隠れルペン」が多いそうです。もしそれが事実なら、世論調査以上にルペン氏が票を集める可能性があるわけで、どうなるかは最後まで分からないというのが正直なところです。

もしルペン氏が勝利するようなことがあれば、世界中が英国EU離脱、トランプ氏勝利に続くショックに見舞われ、世界中の市場に株安が波及する恐れがあるでしょう。ルペン氏は大統領選に勝てば、フランスのEU離脱を問う国民投票を実施すると発言しており、もし英国とともにフランスまでEU離脱となれば、EUはほとんど空中分解状態となりかねません。これはユーロ急落を招き、それが円高となって日本経済を直撃することも警戒しなければなりません。

フランスはかつて第2次世界大戦時にはナチス・ドイツに占領され、それに対し国内各地でレジスタンス運動が展開されたという歴史を持つ国です。そのリーダーだったドゴール将軍が戦後に首相、大統領に就任し、その後は長年にわたって共和党と社会党の2大政党政治が続いてきました。そのようなフランスで極右政党の党首が大統領になるかもしれないというような状況は、少し前までは考えられないことでした。それほどに反移民・反EUの流れが強まっているわけです。

フランス大統領選の結果は、今年秋に予定されているドイツの総選挙にも影響を与える可能性があります。ドイツではメルケル首相が移民や難民を積極的に受け入れてきたことやギリシャ支援に反発が強まり、このところメルケル首相の支持率が低下しており、その一方で、「ユーロからの離脱、ドイツ・マルク復活」などを掲げる新興の反EU政党が支持を伸ばしています。こちらはフランスやオランダの極右政党ほどの勢力には達していませんが、今後の動向には要注意です。

このように欧州では、なお懸念材料が目白押しです。英国のEU離脱についてのEUとの交渉も近く始まる見通しですが、その先行きも不透明です。政治的混乱が広がれば、経済にもさらにマイナスの影響を与える可能性があり、イタリアやギリシャなどの経済危機再燃に波及する恐れもあります。欧州のこうした動きは、米国のトランプ旋風の行方とも絡んで、しばらくは警戒が必要な局面が続きそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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