株価がようやく下げ止まりの気配を見せてきました。日経平均株価は21日に1万6000円割れ寸前まで下げたあと、22日は941円高と大幅反発し、週明けの25日も152円高と続伸し、1万7000円台を回復しました。2日続伸は今年初めてです。

このきっかけとなったのは、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が20日に追加緩和の可能性を示唆したため、市場に安心感が出たことです。これをうけてまず欧州、米国の株価が上昇し、明けて21日以後の日本、そして中国でも株価が上昇しました。

年明け以後の日経平均株価

年明け後の株価下落は、中国経済減速懸念、原油安、円高が連動して起きていましたが、20日以降(日本は21日以降)の動きはそれが逆転した形です。原油価格(WTI、NY先物市場)も20日に1バレル=26ドル台まで下落したあと大幅上昇し、22日には30ドルを回復しました。

年明け後の原油価格(WTI、NY先物市場)

株価はまだ流動的、その判断に大きく影響するのが当面の米国と日本の金融政策

それでは、これで株価はもう下げ止まったと見ていいのでしょうか。その可能性はありますが、まだ流動的です。その判断に大きく影響するのが、当面の米国と日本の金融政策です。今週は米国ではFRB(米連邦準備理事会)が金融政策を決めるFOMC(米連邦公開市場委員会)、日銀が金融政策決定会合を相次いで開きます。FRBが今後の利上げのペースを緩めるなどの姿勢を示すか、日銀が追加緩和を決定または今後の可能性を示唆するかなど、日米の中央銀行がECBに続いて"市場に優しい"姿勢を示すかに関心が集まっているのです。

ただ市場の関心はやや過大な期待との感もあります。もともと今回のFOMCは利上げ決定の可能性はほとんどないため、焦点はFOMC後に発表される声明文の内容です。ここで世界経済のリスクを指摘するなどの表現が入れば、「次回3月の利上げ見送り」の可能性が出てくるため、市場にはプラス材料ですが、特に目立った表現がなければ失望感が出る恐れがあります。

日銀についても、もともと今回会合での追加緩和の予想は少ないのですが、年明けの株価下落をうけて「1月追加緩和」の期待が一部に出ています。したがってこれも追加緩和がなければ、失望に変わる可能性もあります。

このように、今週は日米の金融政策の結果次第では相場が乱高下する可能性がありますので、もう少し様子を見る必要がありそうです。

依然として、原油安が続く可能性が最も高い状況

もう一つ、株価の動向に大きな影響を与えるのが原油価格です。前述のように、先週から今週にかけて株価の上昇と連動して原油価格も大幅上昇となりましたが、原油価格もこれで下げ止まったのでしょうか。

原油価格の今後についてはこの連載の前号で、3つのシナリオを紹介しました。それは、(1)原油安が続く(サウジアラビアとイランの断交で協調減産困難、イランは経済制裁解除で原油増産・輸出増加)、(2)価格高騰(サウジとイランの軍事衝突または緊迫化)、(3)価格上昇(サウジが財政悪化、国内不安定化で原油減産に転換)――というものですが、依然として、「シナリオ(1)」の原油安が続く可能性が最も高い状況に変わりありません。

どうなる原油価格――今後のシナリオ(再掲)

特に前号掲載以後、イランへの経済制裁の解除が本決まりとなり、いよいよイランの原油生産と輸出増産が始まります。OPEC(石油輸出国機構)の最新のデータによると、イランの2015年12月の原油生産量は日量平均288万バレルですが、これは経済制裁下で原油生産が抑えられている水準です。もともとはサウジに次ぐ石油大国で、400万バレル程度の生産が可能です。今後イランが本格的に増産すれば、原油価格の押し下げ要因となるでしょう。

OPEC主要国の原油生産量(万バレル/日量、▲は減少)

イランの動きに対しサウジアラビアがどのような戦略で動くかが、もう一つのカギ

イランの動きに対しサウジアラビアがどのような戦略で動くかが、もう一つのカギとなります。最近の動きから見れば、イランに対抗してサウジも増産を続けるというのが、標準的なシナリオでしょう。そもそも、ここ1年余りの原油価格下落はサウジが米国のシェール・オイルに対抗してシェアを確保するため増産を続けたことが最大の原因ですが、それは同時に"イランつぶし"の狙いもありました。イラン原油の生産コストがサウジよりも高いため、価格下落を放置していればイランに打撃を与えることができるというわけです。

ところが、ここへきて原油の価格下落が予想以上に大きくなったため、サウジ自身の足元が怪しくなってきたのです。このへんの事情は前号にも書いた通りですが、これら一連の政策を推進しているのがムハンマド副皇太子です。同副皇太子は、昨年1月に死去したアブドラ前国王の後を受けて即位したサルマン国王の息子で、まだ30歳の若さですが、サルマン国王の信頼が厚いと言われています。軍事から経済政策、石油政策などの権限を集中させているそうで、イエメンへの軍事介入を主導するなど、対外的には強硬な姿勢を打ち出し、国内的には財政赤字に対応して光熱費の値上げなどの改革路線をとっています。

したがって同国の石油戦略もムハンマド副皇太子とその後ろ盾となっているサルマン国王の意向に沿って進められていると見るのが自然です。そうだとすると、イランへの強硬姿勢もそう簡単には変わらないかもしれません。

サウジの新体制になってから、アメリカとの間に冷たいすきま風

またサウジの新体制になってから、アメリカとの間に冷たいすきま風が吹き始めている点も気になります。アメリカ・オバマ大統領がイランの核開発問題で合意しイランへの経済制裁解除を決めたことにサウジは反発しており、これが今回のイランとの断交の背景の一つにもなっています。

その一方で、このほど中国の習近平国家主席がサウジを訪問して異例の厚遇で迎えられるなど、中東をめぐる国際的なパワーバランスに微妙な変化が出始めています。中東情勢がますます複雑化していると見る必要があるでしょう。

こうした状況の中で、サウジは石油戦略において対米、対イランの関係からも増産をやめない可能性がありますので、原油価格もまだ下落するリスクは残っていると見た方がいいかもしれません。

サウジが石油戦略を転換せざるを得なくなる時期が来る可能性も

ただ、そうした見方と同時に、サウジが石油戦略を転換せざるを得なくなる時期が来る可能性もあると見ています。その背景は国内経済の一段の悪化です。すでに原油下落によって同国の資産が目減りし、それを穴埋めするために保有株を売却していると言われています。それがこの間の株価下落を加速される一因となったものですが、国内でも鉄道建設プロジェクトが縮小されるなどの影響も出ています。

サウジが石油戦略を転換せざるを得なくなる時期が来る可能性も

サウジが果たしていつまで原油安を我慢し続けられるでしょうか。いずれ価格引き上げ、つまり減産に動く可能性は無視できません。その場合は、対立するイランも歓迎でしょう。イランは以前からOPEC総会などで減産を主張していましたから、サウジが減産に方針を転換しさえすれば、OPECの合意は簡単と思われます。

実はその兆しがあります。一つはイランとサウジが関係修復の動きが出始めていることです。報道によりますと、イランの首脳が相次いでサウジとの対話の意思を表明しているほか、サウジ国内で開かれたイスラム協力機構の会合にイランの外務次官が出席し、サウジ側との対話を呼びかけました。主にイラン側からの動きで、サウジは依然としてイラン批判を続けていますが、少なくとも軍事的な衝突や緊張は避けるような方向にはなっていないようです。

もう一つは、ナイジェリアなどOPEC加盟の数カ国が臨時総会の開催を要請したとのニュースです。いまのところサウジはそれに応じていませんが、2月か3月頃に臨時総会が開かれ減産が話し合われる可能性はゼロではないでしょう。臨時総会がなくても6月に定例の通常総会がありますので、そのあたりの時期が一つの節目になるかもしれません。

ごくわずかだが減産の兆しも

実は、減産の兆しはごくわずかですが表れ始めています。OPECがこのほど発表した「石油市場月報」によると、2015年12月のOPEC加盟国の原油生産は日量3218万バレルで、前月よりわずか21バレルですが減少しています。まだ「減産」と言えるレベルではありませんが、増産には歯止めがかかり始めていると見ることができます。

これら二つの動き――減産とサウジ・イランの関係修復が重なれば、原油価格は底入れして上昇に向かう「シナリオ(3)」もあり得ます。前号掲載時に比べれば、その確率は低いながらも、やや高まったと言えるでしょう。

いずれにせよ、サウジがカギを握っていることは間違いないところです。ますます複雑化する中東情勢に世界中が一喜一憂する展開がしばらく続きそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。