連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。
これほどまでに訪日外国人が増えている理由は?
日本を訪れる外国人が急増しています。日本政府観光局がこのほど発表した10月の訪日外国人客数は前年同月比37.0%増の127万2000人となり、単月としての過去最高を記録しました。この結果、今年1-10月の累計では前年同期比27.1%増の1100万9000人となり、2013年に記録した年間の過去最高(1036万人)を早くも上回りました。今年は年間で1300万人前後に達する見込みです。
日本を訪れる外国人は昨年1000万人の大台を超えました。日本政府は東京五輪の開催される2020年に2000万人を目標に掲げていますが、このペースでいけば前倒しで目標達成できそうな勢いです。
私は毎週のように東京と大阪を新幹線で往復しているのですが、明らかに外国人の乗客が増えています。以前から京都で乗り降りする外国人はいましたが、最近は中国人のグループやヨーロッパ人の家族連れなどが目立ちます。このコラムを読まれているみなさんも、街中で外国人の姿を見かけることが多くなったと感じているのではないでしょうか。
これほどまでに訪日外国人が増えている理由は主に3つです。第1は、日本政府が中国や東南アジアなどを対象にビザの条件緩和を実施するなど観光客増加の取り組みに力を入れていることです。今年1-10月累計の訪日外国人数を国・地域別に見ると、中国からの訪日客数は前年同期比80.3%増、フィリピン65.4%増、マレーシア49.8%増、タイ48.2%増など、ビザ緩和の対象国の伸びが大きくなっています。また地方自治体や観光業界などが海外へのPRや誘致活動に力を入れており、その成果が表れています。
第2に最近の円安です。外国人観光客が目立って増え始めたのは2013年からですが、ちょうど円安が進行した時期と重なります。2012年11月ごろまでは1ドル=80円前後だった円相場が今では118円台(11月25日現在)になっているのですから、外国人にとって大幅に割安になったわけです。
第3は、海外で日本への評価や関心が高まっていることです。いくらビザが緩和されても円安になっても、日本に魅力がなければ日本にやってきません。多くの外国人をひきつけるものが日本にあるからです。「クールジャパン」という言葉に代表されるように、日本のアニメや文化、和食などが海外でブームのようになっていることが、それを示しています。日本の伝統の奥深さや美意識、細部にこだわるきめの細かさ、さらにそれを支える技術力などが高く評価されているのです。これは前述の国々だけでなく、米国や欧州各国などほとんどの国・地域からの訪日客数が2ケタ増で過去最高を記録していることにも表れています。
訪日外国人急増が日本経済にとって持つ"大きな意味"とは?
このような訪日外国人急増は日本経済にとって大きな意味を持っています。まず直接的な経済効果です。日本政府観光局の別の調査によると、訪日外国人の旅行消費額は今年1-9月で前年同期比40%増の1兆4677億円にのぼっています。これはすでに昨年1年間の消費額を上回っており、このペースでいけば今年は2兆円近くに達しそうです。
この金額の大きさは驚きです。現在、安倍政権が検討している景気対策の規模が2~3兆円と報道されていますから、訪日外国人が日本国内で消費する金額だけで一つの景気対策になりうると言えるほどの規模なのです。
訪日外国人の人数が増えているだけでなく、一人当たりの消費額も増えていることが最近の特徴です。最近の景気がもたついているだけに、こうした外国人の旺盛な消費意欲が景気下支えの役割を果たしています。
今後、2020年の東京五輪に向けてさらに訪日外国人の増加と消費増加が見込まれますので、それによる経済効果は長期にわたって持続・拡大していくことが期待できます。
地域活性化や意識の面でのグローバル化もメリット
そしてそれは金額で表される効果だけではありません。外国人観光客の増加に対応して各観光地が観光施設や都市・交通インフラの整備を進めることで、地域の活性化にもつながります。
外国人観光客が増加することによって、我々日本人が日常生活の中で「外国」を意識する場面が増えていきます。そうした経験を通じて、とかく内向きになりがちだった日本人が広く海外に目を向けるようになり、意識の面でグローバル化することにもなるでしょう。
日本を訪れた外国人を通じて、日本の観光地についての情報がより多く海外に紹介されて、それがさらなる観光客の増加や地元産品の輸出にもつながります。海外で日本の評価が高まることにもつながります。
このように観光は日本の有力な成長産業になりうるものです。これはまさに成長戦略を支える柱でもあり、東京五輪の経済効果を最大限に生かす道でもあるのです。
実は世界を見わたすと、それぞれの国・地域を訪れる外国人の数は日本は世界で27位、アジアでも8位にとどまっています(2013年)。今年はもう少し順位が上がると見られますが、それでもまだまだ順位アップの余地があります。「観光大国ニッポン」への道は始まったばかりです。
執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)
1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。