北海道・札幌市の東部に隣接する江別市。田園風景が広がる「食と農」の街、そして120 年以上続く「歴史あるれんが」の街として知られています。この2つの魅力が溶け合う商業施設「EBRI(エブリ)」が2016年3月にオープンし、市民交流・観光拠点として注目されているのです。
本特集では、EBRIを中心とした地域活性化の取り組みについて紹介します。
近代化産業遺産の建物を活用
EBRIとは、江別【EBETSU】とれんが【BRICK】を組み合わせて生まれた名称で、舞台となっているのは、赤れんがの歴史的建物「旧ヒダ工場」。
1951(昭和26)年に建築されたれんが窯業工場で、江別市の赤れんが製造発展の歩みを物語る建物として国の近代化産業遺産に登録されています。
1998(平成10)年の廃業後、貴重な建物を保存・活用するために工場跡と敷地を2000(平成12)年に江別市が取得。人が集まる空間へと再生させるパートナーとして選定されたのが、商環境デザイン・設計等を手がけるストアプロジェクトでした。
きっと、面白いプロジェクトになる!
同社の取締役・間宮なつきさん(営業推進統括/一級建築士)は、初めて旧ヒダ工場を訪れたときをこう振り返ります。
「建物の中は暗く、埃っぽくて、一見するとまるで廃虚のようでした。しかし、そこには大きな窯2台や焼き上がったれんががそのまま残り、散在する工具、チョークの指示書きなどを目にすると、まだれんが製造をしている人々がそこにいるかのような"気配"を感じたのです。きっと、面白いプロジェクトになるという予感がしました」。
当時、間宮さんは東京を拠点に全国のあちらこちらで設計の仕事をこなしていましたが、江別市とは初めての関わり。
「緑の風がそよぎ、なんて大らかな街なんだろうというのが最初の印象です。東京とも札幌とも全然違う! どういうアプローチをするのが良いのか、気づくと前のめりで考えていました」。
そこで、このプロジェクトにさらに力を注ぐために、頻繁に江別市へ通って地元の人たちと対話を重ねます。その後、間宮さんは建物のコンセプト作りを行い、リノベーションに着手したそうです。
「赤れんがの外観はもちろん内部の壁や柱などをできるだけ保存したかったので、慎重に慎重に時間をかけて作業しました。危険な箇所は取り壊すしかなく、とても残念でした。いわば、壊しながらどのような空間を生み出せるかを丁寧に見つけていくプロセスです。新築を多く手掛ける工務店からは『全部ゴミに見える』と言われました(苦笑)」。
試行錯誤を重ねながら進めたリノベーション。その考え方は本物のレンガの壁を魅せる・引き立てること。そのため、古いレンガに対し、新しさをぶつけ、レンガの廃墟感を歴史の重みというポジティブ方向に変えるデザイン処理を行ったといいます。
また、改修前のレンガ造りの建築は現在の建築基準法には適合しません。そこで、レンガ壁を残しつつ、地震の揺れや強風、屋根の積雪にも耐えるよう鉄骨造と基礎を入れ替え、多くの方が安心して利用できる建物へ改修したのです。
EBRIの施設コンセプトは、Makers(つくる)Factory
江別市のこと、市民の"地元愛"を知るほどに、間宮さんは市の名産である小麦ハルユタカやおいしい野菜、良質な乳製品などを生み出す産業を応援し、地産地消のローカルファーストな交流の場・新商品生産の場づくりを目指すようになります。
「ヒダ工場は、温度や成分を変えて特殊なれんが作りにも挑んでいたようです。モノづくりに対するそんな職人魂が、この建物には宿っています。江別市の魅力を生かす新商品はもちろん、この街に住む誇りや愛着もつくっていけたらいいなぁと考えるようになりました」(間宮さん)
テナント候補となる方々には、「江別産をぎゅっと集めた施設にしたい」と、分かりやすく説明を行い、地元企業に参加・協力してもらえるよう説明会を開催。建築改修後は店舗の工事が始まる前に市民に内部を披露し、市内の中学生オーケストラによる大演奏が空間を満たしました。
このような地道な努力が実を結び、2016年のグランドオープン時は江別市の観光入込数が70万人から100万人台に押し上げるほど、想定以上の賑わいになったそうです。
EBRIを末永く愛される場へと育てる
提供する商品だけではなく、関わってもらう人たちも"江別産"にこだわっていた間宮さんに、頼もしい助っ人が現れます。オープン2周年を祝うパーティを企画・主催した、プリオンデ代表取締役の山崎啓太郎さんです。
江別市在住のデザイナーで、WEBサイトや紙媒体のデザインにとどまらず、SNSやゲームを活用した情報発信など江別市を楽しく、元気に盛り上げる様々な仕掛けもクリエイトしています。
江別が大好きという山崎さんは「この街に、こんなにおしゃれな施設ができて、とにかくうれしい!」と、表情がやわらぎます。そして、山崎さんは、EBRI内の飲食店ゾーン「えぶろじ」や和食店「兎と角(とにかく)」、ピッツェリア「EBEZZA(エベッツァ)」などのロゴをデザイン。
「手伝えることがうれしくて、無我夢中でたくさんの案を考えました。EBRIのおしゃれな雰囲気に合い、長く使用されても鮮度を保てるようなデザインを心がけました」。
山崎さんは、11月8日に「EBEZZA」で音楽イベントを開催するなど、「江別市民にもっともっと身近に感じてもらえる場所にしたい」と話し、間宮さんやテナント各店、地元の仲間たちと日頃からあれこれ作戦を練っているそうです。
「EBRIオリジナルのお土産を創り、道内外をはじめ年々増えている海外からの観光客にも旅の思い出とともに持ち帰ってもらいたいです」(山崎さん)
「建物は完成がゴールですが、EBRIプロジェクトにとってはスタート。ここから5年、10年……どう育てていくのか、私にとっては子どもができたような感覚です。地域の人たちと対話を重ねながら、末永く愛され、日本中・世界中のどこにもない場を提案し続けます」(間宮さん)
次回は江別市役所の方より、EBRIについて期待すること、地域活性に関する取り組みについてお聞きします。