累計5000億円を運用してきた元ファンド・マネージャーが、その膨大な知識と経験を生かし、これまでになかったマネー小説を、Web上で執筆します。掲載最初の週である今週は平日毎日更新しました。来週からは週1回の更新となります。


「私はまず、世界経済の大きな枠組みが変わってしまったと考えていることからお話したいと思います。そうでないと短期であろうと長期であろうと見通しは語れないので……宜しいでしょうか?」そう言う柏木に女性インタビュアーは、にっこりと微笑んで頷いた。

「ありがとうございます。私は第二次世界大戦後の世界経済のメイン・エンジンは一貫して旺盛な米国の個人消費であったと考えています。米国人は一生で3度家を住み替えます。家を替える時に家具を買い替え、クルマを買い替え、家電製品を買い替える。旺盛な消費を維持する構造のお陰で日本やドイツなど敗戦国は奇跡の経済成長を成し遂げ、後にアジアを中心とする新興国が続いた。しかし、そのメイン・エンジンが破壊されました。例のサブ・プライムによって、右肩上がりだった米国の住宅価格が下落に転じてしまったのです。個人の資産評価額は大きく下落し、借金が重く圧し掛かってしまった。米国民の資産と負債のバランスが逆転し、債務超過に陥っています。そうして、過去のような旺盛な消費の継続は不可能になったという訳です」

(イラスト : ミサイ彩生)

執筆者プロフィール : 波多野 聖(はたの しょう)

本名、藤原敬之。一橋大学法学部卒業後、農林中央金庫に入庫、国内及び米国株式を運用。野村投資顧問(現野村アセット・マネジメント)に移り米国・英国年金の日本株式運用を担当。クレディ・スイス信託銀行で、日本株式運用部のマネージング・ディレクターを経て、日興アセット・マネジメント社内に、業界史上初の個人名を冠した「藤原オフィス」で運用を担当。その後独立。累計5000億円を運用してきた。デビュー小説『銭の戦争』(角川春樹事務所・ハルキ文庫)を第2巻まで刊行している。