累計5000億円を運用してきた元ファンド・マネージャーが、その膨大な知識と経験を生かし、これまでになかったマネー小説を、Web上で執筆します。


柏木真男は不思議な夢を見ていた。とてもリアルな夢だった。

自分が海の中にいる。どうやら太古の海だ。シーラカンスが泳ぎ、アンモナイトが海底を蠢いている。その奇妙な光景に見とれた次の瞬間、今度は広大な陸地に立っていた。異様な暑さと湿気を感じる。そこではトリケラトプスが草を食み、ブロントザウルスが悠然とその巨体をもたげていた。唖然とする柏木にどこからか声が聞こえて来た。

「過去に……意味はない」

何のことか理解できない。ただただ混乱する中、今度は戦国時代の合戦の中に自分がいた。鎧兜を身に着けている。その重みに戸惑っていると、血の匂いがしてきた。足元を見た柏木はギョッとした。首の無い足軽姿の人間が転がっていたからだ。

「歴史など……みな作り物だ」

また声が響いた。そして、次の瞬間、柏木は宇宙空間に投げ出されていた。

「……あるのは未来だけだ」

(イラスト : ミサイ彩生)

執筆者プロフィール : 波多野 聖(はたの しょう)

本名、藤原敬之。一橋大学法学部卒業後、農林中央金庫に入庫、国内及び米国株式を運用。野村投資顧問(現野村アセット・マネジメント)に移り米国・英国年金の日本株式運用を担当。クレディ・スイス信託銀行で、日本株式運用部のマネージング・ディレクターを経て、日興アセット・マネジメント社内に、業界史上初の個人名を冠した「藤原オフィス」で運用を担当。その後独立。累計5000億円を運用してきた。デビュー小説『銭の戦争』(角川春樹事務所・ハルキ文庫)を第2巻まで刊行している。