前回は令和3年度(2021年度)に新設された制度融資に関する情報を集めて解説いたしました。今回は資本性ローンの利用シーンについて考えます。
資本性ローンは融資商品の一形態で、日本政策金融公庫が提供する「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」の利用が広がる中で知名度が上がりました。融資でありながら金融検査上自己資本とみなすことができることが特徴で、業績に応じて金利が変動し、長期一括返済の条件となります。報道では資本性劣後ローンとも呼ばれますが、金融庁の説明では資本性借入金という言葉が用いられています。金融庁の報道発表資料「資本性借入金の取扱いの明確化に係る「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正について」に記載されている内容が分かりやすいので引用します。
資本性借入金に係る資本類似性の判断の観点
資本類似性は、あくまでも借入金の実態的な性質に着目して判断されるものです。債務者の属性(企業の規模等)、債権者の属性(金融機関、事業法人、個人等)や資金使途等により左右されるものではなく、基本的には、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から判断されます。一般的な条件として以下のようなものが考えられます。
[償還条件]
・償還期間が5年超
・期限一括償還(又は同等に評価できる長期の据置期間が設定されていること)
[金利設定]
・資本に準じ、配当可能利益に応じた金利設定
―業績連動型が原則
―債務者が厳しい状況にある期間は、これに応じて金利負担が抑えられるような仕組みが講じられていること
[劣後性]
・法的破綻時の劣後性が確保されていること
(又は、少なくとも法的破綻に至るまでの間において、他の債権に先んじて回収されない仕組みが備わっていること)
担保については金融庁のパンフレット「「資本性借入金」の活用を検討してみませんか?」に記述があり、劣後性の判定の際に必ずしも「担保の解除」は要しないとされています。細かい論点は「資本性借入金関係 FAQ」の「(問8)担保付借入金は、「資本性借入金」には該当しないのですか。」、「(問9)「担保解除を行うことが事実上困難」とは、どのような場合をいうのですか。」の項目をご参照ください。
保証についても「(問11)保証付借入金は、「資本性借入金」には該当しないのですか。」に考え方が書かれており、基本的に保証付借入金は「資本性借入金」には該当しない、ただし、「長期間償還不要な状態」、「配当可能利益に応じた金利設定」、「法的破綻時の劣後性」といった条件が保証の実行後においても確保できる仕組みを備える等、保証付借入金であっても「資本性借入金」とみなせる場合も考えられる、とされています。
資本性ローンを申し込むことができる金融機関は、日本政策金融公庫、商工中金、日本政策投資銀行といった政府系金融機関以外に、新型コロナウイルス感染症への経済対策を契機として民間金融機関にも広がりつつあります。
昨年から今年にかけて報道されたニュースからピックアップいたしますと、朝日信用金庫の事例、信金中央金庫の事例、北洋銀行の事例があります。それぞれの金融機関のWebサイトに詳細な情報が掲載されていないケースもありますので、具体的に利用を検討する際は窓口となる法人営業担当者へ情報提供を依頼することになります。
資本性ローンの利用シーンとしてまず取り上げられるのは、新型コロナウイルス感染症への対応でクローズアップされたように、経営再建のケースです。長期資金を供給することで資金繰りを安定させ、資本性ローン実行前から存在する既往債務の返済を進めて、中長期的に負債比率の適正化を図っていきます。DDS(Debt Debt Swap)の枠組みを、金融機関との複雑な交渉を省略して簡便に構築する方法だと言えます。
いわゆる攻めの経営をする局面で資本性ローンを活用することも考えられます。ベンチャーキャピタルからの出資に上乗せする形で資産背景(厚い資本金と現預金残高)をもとに申し込むケースや、累積損失が蓄積して純資産は少ないが売上が拡大傾向で損益分岐点を超える見込みがあるケースがあります。当てはまる場合は積極的に検討してもよいでしょう。
一方で、利益剰余金を含めた純資産に厚みがあるケースにおいては、通常の融資においても金額・期間・金利面で条件が優遇されていることが多いです。新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)においては税引後当期純利益額が0円以上の場合に金利が最低で2.60%、最大で2.95%という水準になりますが、挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)では売上高減価償却前経常利益率が5%超となった場合に金利が最低で5.30%、最大で6.20%になります。短期プライムレートが1.475%という環境下で相対的に高い金利を払うことを長期的に我慢できるのか、熟慮しないと後々後悔する可能性が残ります。
資本性ローンの魅力として業績不振時の金利が低いことが挙げられますが、現実的には低金利を狙って赤字の状態を5年10年と継続できないので、将来支払う金利の予測は楽観的に考えすぎないようにします。資本性ローンの申込条件を満たすケースでも、通常の融資の方が金利面で有利なことはありえます。資本性ローンの主だった効果として、みなし自己資本を増やす効果、元本返済が猶予される効果、エクイティファイナンスと比較して資本コストを低減できる効果があります。各要素のバランスを考慮して、利用の是非を決定します。
また、資本性ローンを検討する際に注意しなければならないのは、「金融検査上自己資本とみなすことができる」ことは「自己資本とみなさなければならない」ことと同義ではない点です。金融庁の資料「主要行等向けの総合的な監督指針(資本性借入金関係) 新旧対照表」においても、「資本性借入金」とは、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金として、債務者の評価において、資本とみなして取り扱うことが可能なものをいう、とされています。
債務者の評価は、金融機関が融資先の企業に対して少なくとも年1回実施する確認作業のことを指すので、厳密には融資の審査そのものを意味しません。資本性ローンの利用は、資本性ローン実行後の融資の追加申込において必ずプラスに働くものではなく、融資審査の度に企業の事業計画や返済可能性がチェックされることを念頭に置く必要があります。特に、資本性ローン実行後も赤字の局面が継続しているケースでは、相対的に調達コストの低いデットファイナンスでの追加資金調達が非常に厳しくなります。資本性ローンで調達できたから先々安心、ということではないのです。
資本性ローンの利用シーンに関する説明は以上です。次回は助成金担保融資について情報を整理します。