2017年はデットファイナンスの概要について、全16回に渡り連載させていただきました。2018年は、筆者が情報をアップデートできた部分について書きたいと思います。
融資を申し込み、審査を経て受け取った条件通知書の内容が相場通りか否か、財務担当者は気になると思います。自分の会社に対する評価が世間並みなのか、優遇されているのか、厳しい見方をされているのか。判断基準がなければ金融機関の意図を汲み取れず、融資の条件について交渉することができません。今回は金利について考えていきます。
上場企業の借入金利子率
まず、最新の学術研究書に書かれている内容を紹介します。
同書によると日本の上場企業の借入金利子率は平均1.5%です。分析の元となったデータは有価証券報告書から収集したものですから、基本的には上場企業の情報と見なしてよいでしょう。言い換えれば、役員の個人保証が外れた状況下での金利水準が1.5%ということです。厳密には、日本の企業の大多数を占める未公開企業の融資とは条件が異なりますので、ベンチマークする際は注意が必要です。
銀行の実状
次に、報道資料を見てみましょう。日本経済新聞に掲載されている2018年10月の短期プライムレートは、1.475%です。先述の学術研究書と比較しても大きな乖離はありません。
報道資料からもうひとつ引用し、帝国データバンクの2018年6月27日付プレスリリース「国内主要112行の預金・貸出金等実態調査」の情報を用いて、手元で簡便に計算してみます。
主要112行全体で、貸出金利息6,456,896百万円、貸出金511,315,620百万円なので金利は約1.26%。大手銀行7行は貸出金利息3,547,892百万円、貸出金257,916,649百万円で金利は約1.38%。地方銀行64行は貸出金利息2,241,050百万円、貸出金201,014,609百万円なので金利は約1.11%です。地方銀行の方が大手銀行よりも金利が低く算出されており、この結果は、融資金額や期間が同じであれば地方銀行の方が大手銀行(都市銀行)よりも低い金利が提示される筆者の実務経験に合致します。
大企業・中小企業の融資状況
一方で、筆者がヒアリングしている範囲では、約定金利が2%台のケースがある制度融資の利用しかできない中小企業が少なくないです。短期プライムレートにリスクプレミアムが乗るケースも、よく聞きます。過去に報道が出たような、大企業に対する超低金利で巨額の融資契約がどの程度統計値に影響を与えているのか、考える必要がありそうです。
試算結果をより詳細に検証するために、融資金額の多寡が金利に与える影響、保証・担保の有無が金利に与える影響、契約期間が金利に与える影響、融資の商品設計が金利に与える影響等を峻別したいところですが、先述のプレスリリースには集計値のみ掲載されていて個別データは提供されておりません。学術的な調査研究が待たれます(研究職や大学院生で本テーマにご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、協力いたしますのでご一報ください)。
筆者の意見をまとめますと、議論の余地が大きく残るものの、融資の金利の相場はおおよそ1. 5%という立場を取りたいです。その水準からの乖離幅が、融資を申し込んだ企業に対するリスク評価の結果であると言えます。
融資金利の相場についての説明は以上です。 次回は、融資金利を低くするために取り得る手段について解説します。
※写真と本文は関係ありません
執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)
株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)
ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。