どんな人でも、「自分をよく見せたい」という気持ちは持っているものです。特に就活の面接では、面接官に自分のことを魅力的な人物だと思ってもらうために、多かれ少なかれ話を盛ったり脚色したりする人は多いと思われます。

このような態度が一切ダメだ、というわけではありません。話の大筋が事実に基づいているのであれば、多少の脚色はテクニックの範囲内でしょう。

もっとも、明らかにすべきではない脚色もあります。例えば、実際は人と話すのがあまり得意ではないのに「人と話すのが好きです」と言ってしまったり、本当はあまりガツガツした性格ではないのに「御社で成長していきたい」と熱く語ってしまったりするのはよくありません。このような無理な「背伸び」は、長期的に見れば自分の首をしめることにつながります。

「意識の高さ」を演じてしまった友人の話

僕の学生時代の友人の中にも、内定欲しさについつい「背伸び」をしてしまった人がいます。

彼はもともと、そんなにガツガツしたタイプではありませんでした。彼はよく「給料は別にそんなに高くなくてもいいから、ラクな仕事に就きたいなあ」という話をしていたのですが、なんとなくとある有名企業を受けてみたところ、順調に選考を進めていき、最終的には内定を獲得してしまいました。

その企業は、給料も高いが激務であることで有名な会社でした。あまりにも彼とその会社のイメージにズレがあったので、僕は困惑しました。どんな態度で面接に臨んだのか聞いてみたところ、彼は周囲の空気に圧倒され、思わず「意識の高さ」を演じてしまったのだそうです。面接官は、最後までそれを「演技」と見抜くことができなかったわけです。

迷いに迷った挙げ句、彼は結局その会社に入社しました。同期や先輩社員との「意識の高さ」の違いを埋めることができず、入社後はかなり苦労したそうです。最終的には、彼はその会社を辞めて転職しました。今は比較的、自分にあった働き方ができているようです。

内定はあくまで「はじまり」にすぎない

企業側が「コミュニケーション力がある学生が欲しい」、「成長意欲の高い人に入社してもらいたい」などと言っているのを聞くと、ついつい自分の本心を曲げてこのような人物を演じてしまいたくなる気持ちもわからないではありません。

もちろん面接官もプロなので、ウソのほとんどは見抜かれてしまうはずです。「英語が得意です」と自己アピールしたところ、「じゃあ、英語で自己紹介してみて」と言われてフリーズしてしまった学生がいた、という話を聞いたことがあります。いくら企業側のニーズに則して「背伸び」をしても、それが実を結ぶことはあまり多くはありません。

しかしまれに面接官が「背伸び」に気づかずに内定が出てしまうことがあります。こうなったら地獄です。

内定は、あくまで会社とのつきあいの「はじまり」にすぎません。入り口だけ偽ってなんとか社員になることができても、その先には日々の業務が待っています。就活の時に無理な「背伸び」をしてしまうと、入社後もずっと同じように「背伸び」をしつづけなければならなくなります。自分が苦手なこと、本当は好きではないことを業務としてこなしつづけなければならない日々を想像してみてください。きっと地獄のようにつらいはずです。

自然体で行って不採用ならしょうがない

大事なことは、「内定のためだから」と言って自分を偽らないようにすることです。会社は「入ってしまえばこっちのもの」と言えるようなものではありません。むしろ、悩みのほとんどは「入った後」にあります。入った後の悩みを少なくするためにも、「苦手なことは苦手」と正直でいることをおすすめします。

無理な「背伸び」をして自分に合わない会社から内定をもらうぐらいだったら、自然体でぶつかって不採用になったほうが長期的に見れば幸せです。世の中には、さまざまな会社があります。中にはきっと、自然体の自分を評価してくれる会社があるはずです。そういう会社をさがしましょう。

入社後にずっと自分を偽り続けなくてもいいように、就職活動はできるだけ自分を偽らずに自然体で行うことをおすすめします。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

タイトルイラスト:Womi

(写真は本文とは関係ありません)