仕事にプライベートを侵食されることほど嫌なことはありません。せっかくの休みの日なのにトラブルで呼び出されたり、平日にできなかった仕事を自宅に持ち帰って片付けたりしていると、どんな人でも気が滅入るものです。平日に気持ちよく仕事をするためにも、プライベートは死守したいと思っている人は少なくないことでしょう。
「仕事とプライベートでしっかりとメリハリをつけたい」というのは、本来であれば当然の要求です。しかし、日本の会社の一部には、このような考え方を嫌う人たちがいます。彼らは若者がプライベートを要求するたびに眉をひそめます。彼らはしばしば、以下のような乱暴な物言いをします。 「若いうちはプライベートを全部仕事に捧げてはじめて一人前になれる」 「見習いのうちはワーク・ライフ・バランスなんて必要ない。必要なのはワーク・ワークだ」 「仕事でまだ一人前になっていないのに、プライベートを要求するなんてありえない」
はっきり言いますが、これらの言い分は完全に間違っています。プライベートは、仕事で一人前になることではじめて付与されるようなものではありません。人間は仕事のためだけに生きているわけではないのですから、仕事とは別にプライベートの時間があるのは当然です。一人前になってはじめてプライベートが確保できるといったような意見は、人生の最大の価値を仕事に置く考え方から発せられているものにすぎず、結局は社畜の理屈でしかありません。
メリハリのない働き方では仕事の質も低下する
そもそも、プライベートを一切考えないような働き方は、仕事の質自体も低下させます。
人間は時間が潤沢にあると思うと、ついついそれをギリギリまで使ってしまいます。「この仕事は土日を使って片付ければいい」といったようなプライベートを犠牲にする働き方が癖になってしまうと、結果的に効率の悪い働き方しかできない「仕事ができない人」になってしまうおそれすらあります。仕事の質を担保するためにも、「プライベートを死守する」気持ちはつねに持ち続けなければいけません。
プライベートを死守するために、いくつか気をつけておきたいことがあります。今回はそれらを3つ紹介したいと思います。
会社の「外」の人間関係を大切にする
まず1つ目は、会社の外の人間関係、つまりプライベートの人間関係を大切にすることです。たまにプライベートでも会社の同僚とばかり遊びに行っている人を見かけますが、これはあまり褒められたものではありません。会社の人とはどうせ仕事でたくさん会うのですから、プライベートでは会社の外とのつきあいを広げることを優先すべきです。
特に意識をしていないと、人間関係は会社の内側に閉じこもりがちになります。大学時代の友人とも気づくと疎遠になり、同期や同僚とばかりつるんで休みの日まで仕事の話ばかりするようになってしまいます。そうならないためにも、会社の「外」への人間関係は意識して伸ばしていかなければなりません。
自宅では仕事のメールを見ない
2つ目は、自宅では仕事のメールを見ないように気をつけることです。今は自宅でも仕事のメールを見られるような環境を整備している会社が多いので、ついつい帰宅後や休日もメールが気になって見てしまう人が少なくないようですが、これはおすすめできません。これをすると、メリハリがなくなってしまうからです。
見るのもよくないのですが、それ以上によくないのがプライベートの時間を使って返信をしてしまうことです。このように休日にメールをやりとりしていると、周囲から「あの人は休日も関係なく働いているんだ」と思われてしまいます。いったん周囲からそう思われてしまうと、本当に休日に仕事を振られたりするおそれがあります。そうなったら悲惨です。
むしろプライベートの時間は一切仕事のメールを返さずに、「あの人はプライベートを大事にしている」というキャラを確立したほうが、ヘンな仕事を振られずに好都合なのでそちらを目指すべきでしょう。
会社の近くに住みすぎない
3つ目は、会社の近くに住みすぎないことです。
会社の近くに住めば通勤時間が短縮されていいようにも思えますが、自宅があまりにも会社の近くにありすぎると「生活が仕事の延長」になりがちです。終電という概念がないので逆に働き過ぎてしまったり、何かあった時に真っ先に会社への呼び出し候補にされてしまいます。時間短縮のために会社の近くに住んだのに、逆に会社にかける時間が増えすぎてしまったという例を僕はいくつも知っています。
わざわざ通勤が大変な遠方に住む必要はもちろんありませんが、仕事とプライベートの線引ができる程度には会社から離れた場所に住むことを僕はおすすめします。
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。
(タイトルイラスト:womi)
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