騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第8回です。

ロボアドバイザーで安心か

投資の世界にAI(人工知能)が進出してすでに久しいと思います。最近は、個人の資産運用を助けてくれるロボアドバイザーが流行っているようです。

金融の知識や投資の経験がなくても、ロボアドバイザーに資産運用を任せれば安心というわけです。それなら「騙されない投資家になるために」シリーズを読まなくても大丈夫ですね。本当にそうでしょうか。

ロボアドバイザーは何をしてくれるか

筆者は時代の流れに乗り遅れるタイプなので、この機会にロボアドバイザーについて簡単に調べてみました。どうやら大きく分けて2つのタイプがあるようです。

ひとつは、投資家の属性(資金の余裕や投資期間、投資目的など)を把握し、それに応じて最適のポートフォリオを提案します。これは、ファイナンシャルプランナーなど生身の投資アドバイザーが行っていた業務を代行するものです。

最低投資額の引き下げや手数料などのコスト削減につながるのであれば、投資家にとってありがたいでしょう。ただ、ネット上で「投資に関する簡単な質問に答えるだけ」で、本当に自分にあったポートフォリオを提案してくれるのか、疑問の余地はあります。

もう一つは、まだそれほど広まっていないようですが、上記に加えて、資産配分の変更やリバランスなど資産運用・資産管理も自動で行ってくれます。ここでも人件費は大きく削減できそうです。ただし、運用のパフォーマンスが人間によるものを上回るのかどうかは、よく分かりません。

相場転換の局面で機能するか

ロボアドバイザーが導入されてせいぜい数年でしょうから、パフォーマンスを比較できる十分なデータはないかもしれません。ここ数年は低金利環境下で、株式相場は基本的に上昇相場です。

とりわけ、米国株はリーマンショック直後の2009年3月から10年近くもブル(強気)相場が続いています。本格的な下げ相場に直面した時に、果たしてロボアドバイザーは「パニックにならず」「冷静に」対処してくれるでしょうか。

LTCMの教訓

革新的な技術・ノウハウが、実は全くのデタラメだったり、大きな落とし穴があったりした例は数多くあります。前者は論外ですが、後者の場合は技術やノウハウが本物だけにかえって質(たち)が悪いかもしれません。

そこで思い出されるのが、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破たんです。 LTCMは94年春に設立された米国のヘッジファンドで、元FRB副議長やノーベル賞学者を抱えていました。ノーベル賞受賞の対象となったオプション価格理論に基づいて、割安と判断する証券を買い、割高と判断する証券を売るアービトラージ(裁定取引)を得意としていました。自己資本に数十倍のレバレッジをかけて運用し、最初の4年間にほぼ毎年40%以上のリターンを叩き出しました。

しかし、LTCMは9月までの約5カ月間に巨額の損失を出し、自己資本の90%以上を失って破たんしました。直接のキッカケは、買い持ちしていたロシアの国債がデフォルト(債務不履行)し、逆に空売りしていた米国債に逃避資金が集まって価格が急騰したことでした。

ただ、破たんの本質は、将来に起こりうる事象の確率を現在のオプション価格などから正確に計算できると誤って考えていたことです。LTCMの投資規模が大きくなりすぎ、また取引を真似るファンドが続出して価格に歪みが生じることや、投資家心理が一方向に偏れば割高な証券の価格は上がり続け、割安な証券の価格は下がり続けることは「想定外」だったのです。

進化するロボアドバイザー

AIの世界は日進月歩。20年前のLTCMの破たんは「石器時代」の話であり、それどころか筆者が最近閲覧したロボアドバイザーに関する情報ですら、すでに陳腐化しているかもしれません。投資家の皆さんには、最新の情報を基にご自身で判断していただきたい。

そういえば、ロボアドバイザーを用いた投資信託のPRサイトで、気になる文章を見つけました。「優秀なロボットを継続的に育成」「ファンドの進化を期待」とありました。つまり、現在はまだ学習中だと言わんばかりですが、その「授業料」が投資家に跳ね返ってこないことを祈ります。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。

2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。現在、マネースクエアのWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを解説。