投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。前回に続き仮想通貨を取り上げます。今回は、仮想通貨が投資に適しているかどうかを考えてみたいと思います。

  • 仮想通貨は投資に適しているか(写真:マイナビニュース)

    仮想通貨は投資に適しているか

前回の「仮想通貨を持つ意義とは」では、決済機能について考察し、現時点では多くの投資の選択肢があるので、仮想通貨が他のサービスで代替できないほど存在感を増してから保有しても遅くはないと結論付けました。また、有事における有用性は認めつつも、それ以前に価格変動が大きいので資産価値が棄損する可能性を軽視すべきではないとも考えました。

それでも人々が仮想通貨に興味を持つのは、やはり多くの「億り人」を生みだしたという高い収益性が期待できるからでしょう。

ビットコイン、価格変動の歴史

2017年12月に2万ドル近くまで上昇したビットコインは、その後わずか2カ月で3分の1以下に、さらに2018年12月にはその1年前のピークから6分の1以下になりました。もっとも、今年3月末の4,000ドル前後からわずか3カ月弱で12,000ドル以上まで上昇しており(6/26時点で12,733ドル)、「夢をもう一度」と考える人が増えているかもしれません。

ビットコインには金利や配当がないので、投資のパフォーマンスとは、相場の騰落と同義です。過去5年間のビットコインのパフォーマンスを振り返ってみましょう。

最もラッキーな投資家は、2015年1月に160ドルで1ビットコインを購入し、これを2017年12月に19,511ドルで売った人です。投資資金が2年弱の間に120倍以上になりました。ちなみに、5年前にビットコインを購入し、現在も保有している人は資産価値が約20倍になっています。

逆に、最もアンラッキーな投資家は、2017年12月に最高値19,511ドルで1ビットコインを購入し、これを2018年12月に3,136ドルで売却した人です。投資資金が1年で84% 消滅しました。

ビットコインはハイリスク・ハイリターン

まあ、ビットコインの相場変動が激しいのは良く知られているでしょうから、もう少しデータをみてみましょう。

過去5年間のビットコインの月間騰落率(月末値の前月末値比)は+5.2% (ここからは円ベース、以下同じ)。つまり、平均すれば毎月5% 上昇していました。同じような高いパフォーマンスを見せた主要な投資商品は他に思いつきません(個別株にはあるかもしれませんが)。ざっと調べたところ、パフォーマンスが良かったNYダウですら、月間騰落率は+0.9% でした。ビットコインのパフォーマンスはNYダウの約5倍だったことになります。

ただし、同じ過去5年間について、月間騰落率の標準偏差で変動率をみると、ビットコインは約25% 、NYダウは約5% となり、ビットコインの変動率はNYダウの5倍でした。つまり、変動率1単位に対する上昇率はビットコインもNYダウもほとんど変わらなかったのです。

騰落率をリターン、変動率をリスクとすると、ビットコインはハイリスク・ハイリターン。それと比べれば、NYダウはローリスク・ローリターンです。そして、リスクに対するリターンはビットコインもNYダウもほぼ同じだと言えます。簡単に言えば、株の5倍のリスクをとってでも株の5倍のリターンを狙いたい投資家にとって、ビットコインは投資対象として検討に値するということです。

もちろん、比較する期間によって結果は大きく異なるでしょう。また、株式には配当がありますが、ここでは無視しているので、厳密な比較とは言えず、あくまでも大雑把な計算に過ぎません。

ビットコインの価値の基準とは?

さて、このようにビットコインは相場変動が大きいので、どの価格水準で売買するかが投資のパフォーマンスにおいて非常に重要になります。ただし、ビットコインにはそれを判断する基準がほとんどありません。

例えば、株価の場合は、発行企業の価値であり、保有する資産の価値や事業の収益性、そして外部要因としての金利などから理論上の価格を算出し、それに対して割安・割高の判断をすることができます。

為替相場の場合はもう少し曖昧かもしれません。それでも、その通貨のバックにある経済の規模や勢い、さらには金融政策や金利、物価、経常収支などが相場水準の参考になるでしょう。長期の物価推移から算出される購買力平価はそうした指標の1つです。

これに対して、ビットコインの場合は、その価値の裏付けとなるものがありません。ビットコインを取引する当事者同士が一定の価値を認めれば、それが価格に反映されるということはあるでしょう。株価にしても為替にしても、上述した判断材料を基にしながらも、最終的には投資家(取引の当事者)が価値を認めるからこそ相場が決まるという点には違いがありません。

ただし、それだけだと心もとないところです。将来有望であり、普及して誰もが利用するようになると予想されることと、現時点の価格が正当化されるかどうかは別物であるように思われます。

米国でのIT株ブームに似た危うさが……

1990年代後半から2000年代初頭のIT株ブームにおいて、全く利益を計上していないITサービス企業でも、利用者のクリック数が飛躍的に増えているから、株価が青天井でもおかしくないとの説がまかり通っていました。ビットコインの高騰にはそれと似た危うさを感じます。

仮想通貨によって多くの「億り人」が誕生したのは事実でしょう。それは、宝くじの普及を狙いとして「当たり」が通常の何百倍も入っているような宝くじが売り出されたことに例えられそうです。しかし、そうした宝くじは二度と売り出されないかもしれません。もちろん、条件がそれよりはるかに劣る普通の宝くじであっても、当たりを引き当てる人はいます。それと同じように考えるべきでしょう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。