投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。金融商品の広告や営業マンの口上のなかには、嘘ではないけれども誤解を生みかねない内容が含まれているケースがあります。いくつかの例を挙げてみましょう。
本シリーズの読者であれば、高利回りでかつ元本が保証されている金融商品が存在しえないことはご存知のはずです。仮にそうした金融商品の広告があるとすれば、それは最初から投資家を騙す目的だと考えてまず間違いないでしょう。
「高利回り外債で、為替ヘッジ付き」
ではなく、「高利回りの外国債券で、為替リスクはヘッジしています」とうたっていればどうでしょうか。この文言自体に嘘はないでしょう。この場合、通貨は何か、だれが債券を発行するのかが重要なポイントです。
まず、米ドルやユーロなどの先進国通貨建てであれば、高利回りの債券を発行するのは信用力の低い、言い換えれば格付けの低い企業だけでしょう。そうした投機的な債券はハイイールド債とも呼ばれますが、いわゆるジャンク債のことです。為替リスクと同等かそれ以上に、債務不履行、いわゆるデフォルトの可能性が気になるところです。
企業が破綻しなくても、利払いの遅れや、債務減免などがあれば、デフォルトに該当し、投資家に損失が発生します。
ブラジルレアルやロシアルーブルなどの新興国通貨建てであれば、政府が発行する国債やそれに近い公的機関や国際機関が発行する債券でも高利回りの場合があります。デフォルトの可能性は低いかもしれませんが、通貨が減価するリスクを強く認識する必要があります。
そこで、為替リスクをヘッジしたいわけですが、そうした新興国では短期金利が高く、短期金利差にほぼ連動する為替ヘッジのコストも高くなります。したがって、為替ヘッジ後も高利回りが維持される可能性はほとんどないと言えます。
(※)為替ヘッジなしの外国債券を購入し、ご自身で例えばFX(外国為替証拠金取引)などを用いて同額の該当通貨を売れば、為替リスクをヘッジすることは可能です。その場合、外国債券の受取利息の総額とFXのスワップ支払いの総額から、為替ヘッジ後のリターンをある程度シミュレーションすることができます。きっと面白い結果になると思います。
「為替レートが5年後に半分になっても損はしない」
先日、ある新興国通貨建てのゼロクーポン債(※)の紹介ページをネットで見かけました。そこにはこう書かれていました。「5年後に外貨建てで投資金額が約2倍になります」と。本当は先頭に「発行体がデフォルトしなければ」を付けてもらいたいところですが、この発行体は国際機関なのでそこは良しとしましょう。
(※)利払いを行う代わりに、その分を販売価格から事前に値引きした債券。たとえば、50で発行し、10年後に100で償還、その間の利払いは行わない(この債券の利回りは年率約7.2%)。
上の文言は、「為替レートが変化しなければ投資金額は5年後に約2倍になります」と変換することも可能です。もちろん、皆さんは「外貨建てで」や「為替レートが変化しなければ」といった前提条件があることにすぐ気が付くでしょう。
為替相場なので、下がることもあれば、上がることもありますが、新興国通貨なら下がる可能性の方が高いこともご存知でしょう。つまり、円での受け取りが2倍になる可能性は高くないと。
私が営業マンなら、こういう言い方をするかもしれません。「為替レートが5年後に半分になっても、損はしない計算です」と。どうです、買ってみる気になりましたか。ただ、私は、この通貨が昨年夏までの3年半の間に対円で3分の1の価値になったという事実を知っていながら、それを積極的にお伝えしないかもしれません。
「歴史的安値圏」や「数年前は倍だった」
他にも言い方次第で印象がずい分と変わる場合があります。例えば、「○○は今、歴史的な安値圏にあります」と言えば、皆さんは「そんなに下げ余地はなさそうだな。むしろ反発する可能性が高そうだ」と勝手に解釈してくれるかもしれません。本当のところは、全く下げ止まらなくて頻繁に最安値を更新しているだけかもしれません。
あるいは逆に、「ほんの数年前は今の2倍の価格で取り引きされていました」はどうでしょうか。「だったら、今から2倍にならないまでも、少しは反発してもおかしくないな」と思いますか。残念ながら、これは数年間で価格が半分になったという事実を伝えているだけです。
果たして、金融商品の広告や営業マンの口上が、本当のところはどういう意味を持っているのか。意図的に、あるいは無意識に触れていないことはないか。よく考える必要があるでしょう。