騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その11回です。

本シリーズの第2回で「リスクとリターンの関係」を説明しました。

高いリスク(将来の価格変動)を許容するならば、相応に高いリターン(収益)を期待することができ、逆にリスクを嫌うならば、低いリターンで我慢しなければならないということでした。

どの程度のリスクを取って、どの程度のリターンを目指すかは投資家それぞれで異なります。

ただし、金融市場全体のムードがハイリスク・ハイリターンに傾く時と、逆にローリスク・ローリターンに傾く時があります。前者は「リスクオン」、言い換えれば「リスク選好」であり、後者は「リスクオフ」、「リスク回避」のことです。

リスクオンの投資行動

リスクオンでは、「おカネを何に投資すれば儲かるか」が金融市場のメインテーマです。大雑把に言うと、大きく損をする可能性はあるが、大きく儲かる可能性もあるならば、その投資は実行されます。

具体的には、株、原油や銅などの国際商品が買われます。また、債券は全般に敬遠されがちですが、その中では格付けの低いものが買われます。

通貨で言えば、南アフリカランドなどの新興国通貨や豪(オーストラリア)ドル、NZ(ニュージーランド)ドルなどの資源国通貨が買われます。

リスクオフの投資行動

逆に、リスクオフでは、「おカネをどこに置けば安全か」がメインテーマです。上述のリスクの大きい投資は見送られ、大きく儲かる可能性は低いが、大きく損をする可能性も低い投資が実行されます。

具体的には、安全性が高いとされる主要国の国債や、流動性の高い(取引量が多く、すぐに換金できる)短期金融商品などが買われます。通貨で言えば、主要国通貨、とりわけ米ドルが買われ、強いリスクオフでは米ドル以上に円が買われます。

金融市場の常態はリスクオン

リスクオフには、もう一つの特徴があります。それは、リスクオンの局面で実行された投資が巻き戻される、いわゆるポジションが手仕舞われるという点です。

この点を敢えて指摘するのは、程度の差はあるものの金融市場のノーマルな状態はリスクオンだからです。投資家がリターンを求めてリスクを取ってきたからこそ、金融市場は発展してきたのです。

リスクオフはノーマルでない状態です。投資家が想定していない、予期していないイベントが発生するから、驚いた投資家は安全とみなせる資産へと資金を移します(「質への逃避」と呼びます)。そうしたイベントの典型的なものが「〇〇ショック」と呼ばれるものです。

リスクオフは突然に、リスクオンはゆっくりと

投資家が虚を突かれるので、リスクオフは突然にやってきます。2016年の英国の国民投票(EU離脱決定)や米国の大統領選挙(トランプ候補の勝利)のように、イベントの期日が決まっており、それに向けて投資家の不安感がジリジリと高まるというケースもありますが、それらはむしろ例外と言えるでしょう。

そして、傷が癒えるのと同じように、リスクオンに戻るには時間がかかります。ただし、いずれはリスクオンに戻ると考えるべきです。

リスクオフから徐々にリスクオンに戻りつつあることを確認してから、投資を実行しても遅くはないかもしれません。

強いリスクオフで「値ごろ感」は危険

強いリスクオフでは流動性の低い(取引量の少ない)資産にはなかなか買い手が現れません。買い手不在の中で相場が際限なく下がるケースも珍しくありません。

したがって、「もうこれだけ下がったから」あるいは「最近の安値を下回ってきたから」といった値ごろ感で投資を行うべきではないでしょう。

VIX指数とは

市場のリスクオンやリスクオフを判断するものとしてVIX指数があります。「恐怖指数」とも呼ばれるVIX指数は、米国の主要株価指数であるS&P500のオプションを基に算出される予想変動率のことです。先行きの変動が大きいと予想する時ほど投資家は不安になります。

したがって、VIX指数は、低いほどリスクオンが強く、高いほどリスクオフが強いことを示します。

VIX指数は、米国の、それも株価の指標ですが、世界中の投資家が注目していることから金融市場全体における投資家心理の目安となります。

ただし、今年に入ってVIX指数に不正操作の疑惑が浮上したこともあり、必ずしも万能とは言えないようです。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。

2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。現在、マネースクエアのWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを解説。