「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、株式会社リミックスポイント代表取締役社長CEO、株式会社ビットポイントジャパン代表取締役会長の小田玄紀氏にインタビューを行いました。
小田玄紀氏
1980年生まれ、東京大学法学部卒業。大学在籍時に起業し、後に事業を売却した資金を元にマッキンゼー出身者らと共に投資活動を始める。「頑張る人が報われる」をコンセプトにして起業家や社会起業家の事業立ち上げ・経営支援を行う。株式、FX、債券などの投資にも精通し、暗号資産取引にも携わる。
2016年3月に上場会社子会社として初の暗号資産交換業を営む株式会社ビットポイント(現 株式会社ビットポイントジャパン)を立ち上げ、同社代表取締役に就任。
2018年、紺綬褒章を受章。2019年には、ダボス会議の名で広く知られる、経済や政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することで世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関「世界経済フォーラム」より Global Leadersに選出される。
『頑張る人が報われる』社会の実現を
――本日は、ありがとうございます。リミックスポイントには4つの事業領域がありますが、今日は特に金融関連事業に当たる暗号資産(仮想通貨)取引所のビットポイントについてお伺いできればと思います。まずは、小田さんのご経歴からお願いします。
小田氏:2001年の学生時代に起業し、最初は学生マーケティング事業を始めました。今では東大ベンチャー企業は多くなりましたが、当時は私たちとチームラボくらいしか東大発のベンチャーはなく、学内でも特異だったかもしれません。
事業が軌道に乗り、2002年からは社会起業家支援を、2003年からはベンチャー企業への投資などを通じてベンチャー企業支援を行ってきました。「社会起業」「ソーシャルベンチャー」と呼ばれる領域は当時まだ理解がなく、「それなら、モデルケースをつくろう」と思って、子どもが売られない世界をつくるために認定NPO法人・かものはしプロジェクトを始めました。
ベンチャー企業支援については、当時はベンチャーキャピタルから資金調達する際も決算書3期分の提出が必要で、「本当に資金が必要なのは、もっと早い段階なのに」と感じていて。「それなら、自分たちが投資して支援しよう」とシード段階からベンチャー企業を支援することにしました。
その後、2011年の東日本大震災が転機になり、事業再生も開始しました。「失敗しても再チャレンジできる世の中にしたい」という想いからです。そんななか、リミックスポイントから社外役員として参画してほしいとオファーがあり、リミックスポイントを再生させることになりました。リミックスポイントは、『頑張る人が報われる』社会をつくることをコンセプトにしています。
2012年からの6年間で、時価総額を4億円から1000億円に成長させることができました。リミックスポイントは、規制緩和や法令改正などの社会が変化するタイミングで生じる課題を、事業を通じて解決する企業として、現在は「エネルギー事業」「金融関連事業」「自動車事業」「レジリエンス事業」の4つを事業領域としています。ビットポイントは、そのなかで金融関連事業に該当します。
――小田さんのご経歴や事業に対する想い、ビジョンは、『再生 逆境からのスタートと不祥事勃発――それでも私がリミックスポイントの社長であり続ける理由(幻冬舎)』で丁寧につづられていますね。「再びの再生」や「逃げない経営」という言葉が、小田さんのお人柄を表していると思います。起業家や経営者の方々にも、ぜひ読んでほしい一冊です。
電力自由化と同じ気配を感じた2016年の資金決済法改正
――では次に、ビットポイントや暗号資産(仮想通貨)についてお伺いできればと思います。小田さんとビットコインとの出会いは、どんなものだったのでしょうか?
小田氏:ビットコインの名前くらいは聞いていたのですが、強く関心を持ったのは2016年3月頃のことです。暗号資産(当時の名称は仮想通貨)に関する取り決め、いわゆる資金決済法改正の閣議決定があり、毎日のようにビットコインや暗号資産に関するニュースが報じられていた頃でした。その様子を見ていて、電力自由化と同じ気配を感じたのです。
リミックスポイントでは、エネルギー事業において電力小売事業を営んでいますが、参入したタイミングが半年くらい遅かったと2016年当時も感じていたことから、「これは今始めないといけない」と参入を決意しました。
最初は、M&Aか提携を考えて数社から話を聞いたのですが、預かり資産より現金が少ないなど、問題があると感じてM&Aや提携、出資には至りませんでした。いろいろと検討した結果、「自分たちでゼロから始めた方が良い」という答えに達して、ビットポイントをスタートさせました。
取引所として最も大事なのはクレジット(信用)で、安心・安全な取引所にしたい。安心・安全の基準は、証券取引所クオリティを担保すること。システムだけでなく、経営管理態勢においてもそのクオリティを意識しました。2016年からサービスを開始し、ハッキングという大きな試練を経験しましたが、今では改善されとても良いクオリティを築くことができたと感じています。
――ハッキングに関しても本で書かれていますね。過去をなかったことにせず、真摯に対峙する姿勢が素晴らしいと思います。
日本の暗号資産業界が抱える3つの課題
――日本暗号資産ビジネス協会(JCBA) や日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の副会長も務められている小田さんから見て、日本の暗号資産(仮想通貨)業界にはどのような課題があると思いますか?
小田氏:JCBAでも議論されていますが、大きく3つの課題があると思います。「セキュリティ」「マネー・ローンダリング対策」「審査」の3つです。
セキュリティはハッキング対策のことで、クラーケンジャパンの千野剛司さんが対応しています。マネー・ローンダリング対策については、コインチェックの蓮尾聡さんが対応しています。審査は私が対応しており、日本の暗号資産取引所で新しい種類の通貨(銘柄)を取り扱う際にかかる審査をスピーディにしていきたいと思っています。今は、審査に1年半から2年ほどかかってしまうのです。
――審査している間に、値が上がってしまいますね。それでは、日本の取引所で取り扱われた時点ですでに割高で、機会ロスになっているとも言えます。
小田氏:そのとおりです。審査にかかる時間を短縮することが重要です。以前は審査の際に、「ビットコインとはなにか」「イーサリアムとはなにか」と、基礎の基礎から解説する必要がありました。その点を改良し、変更点や特記すべき点を洗い出すだけにしました。今後はさらに改良し、より審査にかかる時間を短縮していこうとしています。日本の取引所で取り扱われる通貨数は、今度増えていくと思います。もちろん、必要な審査工程は残し、取り扱う通貨(銘柄)のクオリティを担保することは重要です。
――どんな通貨(銘柄)が取り扱われるのか、楽しみですね。税制についてはいかがでしょうか?
小田氏:税制改正についても動いています。よく言われるのが、「暗号通貨交換業者が事業をしやすくするためにルールを変えるのではないか」という指摘です。私はそうではなく、「日本社会のためにルールを変えた方が良い」と感じています。
日本の暗号資産保有者は、世界の暗号通貨市場の4%ほどしかいません。本当にそうでしょうか。実際には、日本の税制に納得できずシンガポールやドバイに人もお金も移ってしまっています。税制を変えれば、海外に出ていってしまった資産が日本に戻ってくるかもしれません。
――確かに、シンガポールやドバイに移住する人は多いですよね。野村総合研究所の「純金融資産保有額の階層別に見た保有資産規模と世帯数」という資料では、世帯の純金融資産保有額が5億円以上の超富裕層は全体の1.6%で8.7万世帯、保有額は総額で97兆円ほど。1億円以上の富裕層は全体の2.3%で124万世帯、保有額は236兆円ほど。5000万円以上の準富裕層は全体の6.3%で341.8万世帯、保有額は255兆円ほど。3000万円以上のアッパーマス層は全体の13.2%で712.1万世帯、保有額は310兆円ほどとされています。
この「超富裕層」に当たる人口が多い世界の10都市は、2017年のWealth-X World Ultra Wealth Reportによれば、香港1万人、ニューヨーク8900人、東京6800人、ロサンゼルス5300人、パリ4000人、ロンドン3800人、シカゴ3300人、サンフランシスコ2800人、ワシントンD.C. 2700人、大阪2700人です。日本の都市が2つ入っているわけですが、税制改正が実現すれば、海外移住してしまった人たちが戻ってきて香港を超えられるかもしれませんね。
小田氏:そのとおりです。FXの税制改正が行われたのは2012年のことで、当時の口座数は300万口座で7800億円ほどの市場でした。暗号資産はすでに1兆円以上の市場になっていますから、税制改正しても良いのではないかと思うのです。
――ところが、まだ日本では「ビットコイン=怪しい」「円天みたいなものだろう」という見方が多くて、「なんだか怪しいから」と後回しになってしまうのでしょうね。海外では、もう「怪しい」というイメージもなくなってきていませんか?
小田氏:はい。海外では怪しいイメージは払しょくされてきています。「暗号資産とSDGs」「暗号資産はサスティナブルか」などの文脈で語られることが増えました。最近は、「Web3(Web3.0)」の文脈でも語られます。「なんだか怪しいもの」というイメージを覆すような必要はなく、イノベーションの一つとして位置づけられています。
例えば、よく「マイニングは環境破壊ではないか」という議論がされます。電源単価は安くても十数円かかり、普通にマイニングしてもペイしません。再生エネルギーはムラがあるものの電源単価が数円ほどに抑えられます。再生エネルギーを使う方が、マイニングを行うマイナーにとっても経済的合理性があり、環境にも良いわけです。
――ケンブリッジ大学のビットコイン電力消費指数によると、ビットコインのマイニングは世界の電力消費量の約0.6%とされています。また、ARK Investment Managementの調査によると、ビットコインが消費するエネルギーは従来の銀行システムに必要なエネルギーの10%以下であるとされています。再生エネルギーだけでマイニングするGryphon Digital Miningのようなベンチャー企業も出てきていますし、よりサスティナブルな存在になりますね。
(後編に続きます)