「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、株式会社一貫堂 常務取締役の阿保晴彦氏に、企業の労働生産性向上や時間創出についてお話を伺いました。


  • 阿保晴彦(おかやす はるひこ)氏

株式会社一貫堂 常務取締役。2006年に一貫堂へ入社後、営業組織の強化や人事制度の整備、さらに社内システムの構築・改善など多岐にわたる業務に従事。現在は、新規事業の企画や事業成長戦略を主導し、企業全体の発展を牽引している。購買プラットフォーム「KOBUY(コーバイ)」の立ち上げを主導。また、2018年には日本で唯一の総務・人事部門専門誌『月刊総務』をM&A。現在、代表取締役会長を務める。


ペーパーレス時代に対応するために着手した購買プラットフォーム

――まずは、購買プラットフォームの「KOBUY(コーバイ)」の立ち上げに至った経緯を教えてください。

阿保晴彦氏(以下、阿保氏):一貫堂の前身は名古屋の印刷会社の文具事業部で、名古屋で最初にアスクルの代理店になりました。そこから独立する形で一貫堂ができ、2005年の創業ですので今年でちょうど20周年になります。年商30億円規模から営業を強化し、おかげさまで二桁成長を続けてくることができました。今では年商120億円になっています。

主に、大手企業・中堅企業様の事務用品・日用品等の購買管理等を行っていますが、購買プラットフォームといってもただのディスカウントではなく「ソリューション」を重視しているのが特徴です。

KOBUYをローンチしたのは2018年のことですが、その前に「新規事業を4つ同時に立ち上る」というプロジェクトがありました。そのひとつがKOBUYで、「ペーパーレスへの危機感」がKOBUY誕生の背景にあります。

2012年頃、アメリカでコピー用紙の使用率が「25%ほど減少している」という情報が入ってきました。コピー用紙の使用量は私たちの事業にとって極めて重要な指標であり、この動きは私たちにとって危機感を抱かせるものでした。日本ではまだペーパーレス化の兆しは見えていませんでしたが、やがて同じ波が日本にも来るだろうという予測が立ちました。事務用品の多くは紙に依存していますから、「このままではアスクルの代理店事業一本では立ち行かない」という判断に至り、将来的な変化に備えるために新規事業を立ち上げることを決意しました。こうして、4つの新規事業を同時に展開するプロジェクトがスタートし、その一つがKOBUYです。

また、Google、Apple、Facebook、Microsoft、Amazonといった「GAFMA」と呼ばれる企業らが、プラットフォーマーとして市場を2010年代前半から席巻していました。この動きから、「これからの時代はプラットフォームが主流になる」と確信し、方針を固めていきました。事務用品の市場は約1.5兆~2兆円規模ですが、間接材のマーケットはその10倍に当たる15兆~20兆円と非常に大きな市場です。この大規模なマーケットにアプローチするには、商材を一つひとつ扱う従来型の代理店モデルでは対応できません。そのため、効率的に市場全体をつなげるプラットフォーム戦略を選択しました。

※KOBUYとは?
間接材の購買業務を集約し、一元管理できる購買プラットフォーム。商品選定から発注・検収・請求・支払・会計までの全工程をデジタル化し、大幅な業務削減を実現するとして、建設業・製造業、大学や研究機関などを中心にさまざまな分野で活用されている。

足を使って現場を徹底的に回り、現場に浸透させた

――事業がスタートしてからは順調だったのでしょうか?また、KOBUYが顧客から支持される理由には、どんなことがありますか?

阿保氏:順調ではなかったですね。当初は、3つくらいの通販機能をプラットフォームにのせるところから始めました。電話などでの発注ではなく、通販に切り替わっていく流れを想定してのことです。しかし、いざ始めてみると現場に浸透しないという事実がありました。

「活用していただけている企業様と、そうでない企業様の差が激しい」ということで、例えば建設会社様の現場を徹底的に回りました。建設現場には現場事務所が必要なのですが、現場のすぐ横に事務所があることもあれば、近所のアパートの一室だったりすることもあります。現場の動き、事務用品等を購入するときの手配の仕方など、現場を回ることで理解できました。

「現場の理解がないと、プラットフォームだけつくっても現場に浸透しない」という事実を受け止め、どうすればお客様にとって便利になるかを考え始めました。そこでたどり着いたのが、「月次決算の短縮と購買業務の効率化。そこまでをワンストップで行うことをプラットフォームのミッションにする」という新たな考え方でした。物を買うだけでなく会計処理、仕訳までをカバーし、業務フローを組んだりシステムを設計したり……。そういったところまで考え抜き、ソリューションを提供しないと価値提供にならないと思います。多くのプラットフォームは、「買う作業をまとめるところ」で終わっている。会計処理までできないとダメだと感じました。

物を購入する場合、企業によりますが現場から管理部門、経理・財務部門へと部門を横断して情報が送られ、日々の業務を進めています。現場を回る中で、日々の業務の確認もさせていただきました。そうすると、さまざまな課題が浮かび上がってきます。しかし、企業の担当者様だけでは全体の流れを把握できませんし、業務改善にも限界があります。私たちのような外部からの風が入ることで、全体の流れを可視化でき、改善を進めることができます。社内だけで調整するのはハードルが高いため、私たちが外部調整機能も担っていると考えています。

プラットフォームだけど「人にフォーカス」していただけている

――購買プラットフォームというシステムだけでなく、部門間や企業間の調整、業務や課題の可視化、課題発見、ソリューションが価値ということですね。そういった価値提供の積み重ねが、顧客から支持を受けている理由ですね。しかし、かなり高度なソリューション能力が必要だと思いますが、どのように人材育成されているのでしょうか?近年、人への投資は企業にとって大きな課題の一つだと思います。

阿保氏:もともとアスクルの代理店事業が基盤ですので、アスクルの営業出身者がほとんどです。社内リソースでスタートしています。営業チームと企業に深く入り込み、課題を発見して解決を支援するカスタマーサクセスグループ、や購買・帳票データ等のバックグラウンドを支援するサービス運営チームもできました。また、昨年の春から、サプライヤー様の支援と拡充を目的としたサプライヤーアライアンスチームもできました。今後はカスタマーサクセスグループと同様に、サプライヤーサクセスグループも必要になると思います。

人材育成はもちろん重要なミッションなのですが、「カスタマーサクセスを追求していくと人が育ち、営業にとっても好循環になる」というのが一つの答えです。カスタマーサクセスを経験すると成約率なども上がります。サプライヤーサクセスも同様であると考えています。「お客様に育てていただいている」というのが実態ですね。今まで、一気に人を投入することをしてきませんでした。今後も、今いるメンバーが丁寧に育てていくことを想定しています。

例えば、導入企業様には専属の担当者がつきます。専属の担当者はKOBUYカスタマーサクセスグループに所属し、マネージャ―の加藤昌孝さん、サブマネージャ―の菅原有里さんをはじめとする所属メンバーたちを中心に、企業様に深く入り込み、課題を発見して解決していき、プラットフォームの利便性を向上してくれています。お客様から「あなたがいてくれたから、この大変なプロジェクトを進められた」という感謝の言葉もいただけており、KOBUYは購買プラットフォームなのですが「人にフォーカス」していただけていることがとても嬉しいですね。

「通販をまとめれば良いのでは?」がKOBUYスタート当初の発想でしたが、事業を進めていくうちにどんどん進化し、課題が浮かび上がるたびに「どうすればもっと良くなるか」を考え続けています。購買はルートの一部ですので、そこだけDXしても意味がありません。業務効率化によって、お客様の満足度・貢献度の向上にも寄与し続ける必要があります。

日本企業の労働生産性を向上

――企業にとって、コスト削減や業務効率化、労働生産性の向上は大きな課題だと思います。KOBUYでは、そんな課題を抱える企業に今後どのような価値を提供していく計画でしょうか?

阿保氏:日本企業にとって、労働生産性の低さは大きな課題です。しかし、労働生産性にだけ目を向けても向上できないと思います。私たちは、間接材購買業務をゼロにし、時間創出することを重視しています。その一つが、決算のスピード化です。締めたら1~2営業日で月次決算できるように仕組み化できると、経営判断もスピード化していきます。企業にとってなくてはならないインフラになれればと考えています。

今は大手企業・中堅企業様や大学などが主なお客様ですが、「いかに中小企業に広げていくか」が、日本企業全体の労働生産性向上のためには重要です。オープンプラットフォーム化も視野に入れ、導入支援も行っていきたいと思います。その際も、これまで培ってきたカスタマーサクセスのノウハウが必要になりますし、生成AIに学ばせてチャットで回答できるようにすることも構想しています。間接材の購入という業務をアウトソースするイメージで効率化し、創出された時間で顧客や社員へのサポートを充実させるなど、社内リソースの再構築ができると思います。そういった業務の選択と集中を実現し、日本企業の労働生産性向上に貢献していきたいですね。