「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は前編に続き、「サステナブルな世界を日本から」というビジョンを掲げる、株式会社Linkhola代表取締役・CEOの野村恭子氏にお話を伺いました。
PROFILE:野村恭子氏
大学院(工学修士)時代に近隣住区理論とコミュニティプランニングと出会い、建設コンサルタント会社で国土都市計画・環境基本計画など市民参加型まちづくりの計画論と実践を積む。その後、国際環境NGOのWWF Japanで、持続可能な森林経営(FSC国際認証)の国内普及の先駆けとなって、国内各地・世界各国の活動家とのネットワークを培い、2006年4月PwC Japanの環境・サステナビリティ部門に入所。企業の省エネ・再エネ導入、気候変動対策、CO2算定・可視化、クレジット組成など多数のプロジェクトマネージャーを歴任し、2013年からPwCで様々な国籍のスタッフで構成される、新規事業開発サービスを立ち上げ、2017年ディレクター就任。企業・自治体の脱炭素・ESG経営、サステナブルな脱炭素プロジェクトの組成支援を主軸にしていくため、2018年9月に独立を機に退職し、2020年1月株式会社Linkholaを設立。
東京大学大学院新領域創成科学研究科卒環境学博士、工学修士、技術士(環境)/新宿区環境審議会会長/経済産業省、資源エネルギー庁、NEDO等官庁の事業審査委員など歴任/一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA) 非常勤
創って・売って・稼げるカーボンインフラサービス「EARTHSTORY」
――まずは『EARTHSTORY』についてお話を伺えればと思います。
野村恭子氏(以下、野村氏):『EARTHSTORY』は、カーボンクレジットを創って・売って・稼げるカーボンインフラサービスです。
「すべての人と企業で一緒にカーボンニュートラル社会をつくる」という言葉を使っているのですが、カーボンニュートラル社会は個人や個社の力だけでは実現できませんから、「いかに他人事にせず自分事にするか」が重要であると思います。国や、一部の大企業に任せるのではなく、一個人、一社一社が自分事として捉え、日々の行動を変えていく必要があります。官主導のカーボンクレジットだけに頼らず、民間主導のボランタリークレジットでカーボンクレジットの発行の審査の「高速化」と「多種化」を実現し、「高速化×多様化」という掛け算で大量に創出していきます。J-クレジットが10年間かけて発行した量を、私たちはたった3年で達成したいと考えています。
――それはすごいスピードですね。カーボンクレジットを発行するプラットフォームは他にもあると思いますが、『EARTHSTORY』の優位性はどんなところにあるのでしょうか?
野村氏:カーボンクレジットの創出、発行、取引を一気通貫で行えることです。『EARTHSTORY』は、審査を短縮することで高速化しています。官主導クレジットは補助金申請があるので、どうしても審査や発行の各段階で渋滞してしまいます。『EARTHSTORY』では、「クレジット商品化」「第三者審査」「クレジット発行」「クレジット販売」という4ステップで完了できる仕組みを構築し、渋滞が生じないようにしました。
『EARTHSTORY』は、再エネや森林プロジェクトなどによるCO2削減量(クレジット)を販売している団体と、CO2削減量(クレジット)を購入したい企業・団体をマッチングするカーボンオフセットプラットフォームとして2022年10月から提供を開始しました。この『EARTHSTORY』の第2弾として、スマートフォンアプリの『こつこつ(CO2CO2)』もリリースしています。これは、多様化のための取り組みです。
『こつこつ(CO2CO2)』は、社員の通勤時や出張時のCO2排出・削減量を算定、可視化することで、組織全体の脱炭素活動を推進できる企業・団体向けの移動の脱炭素支援クラウドサービスです。『こつこつ(CO2CO2)』を企業が導入することで、
●上場企業などScope3(※1)の可視化に取り組む企業は、通勤・出張のカテゴリーの算定・可視化だけでなく、さらなる削減効果が期待できる
●中小企業・スタートアップ企業などは、削減したCO2を『EARTHSTORY』で売買できる
●リモートワーク・オンライン会議による脱炭素の効果を明確にでき、あわせて旅費交通費の大幅削減が期待できる
などのメリットを得ることができます。
※1 Scope3とは、事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量。
・Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
・Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
・Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
『こつこつ(CO2CO2)』は、「移動の脱炭素」にカテゴライズされるサービスで、個人一人ひとりの行動変容によってカーボンクレジット創出することができます。他にも、自転車や自動車のシェアリングやリサイクルユース、ブルーカーボン、プラごみ対策、畜産(ゲップ)、有機農業…など、多様なカテゴリーのカーボンクレジットを創り、販売までできる仕組みを提供していきたいと考えています。
他人事にせず「体験」「参加」することが重要
――『こつこつ(CO2CO2)』は、個人や企業の行動を変えていくことでカーボンニュートラル社会の実現に貢献する取り組みですが、野村さんのお話をお聞きしていると、「体験」することがやはり重要なのだなと感じます。かつてのエコブームは、ブームではなく定着し、日々のごみの分別や3R(リデュース、リユース、リサイクル)促進など、人々の行動を変えました。そうやって徐々に自分事になっていくのでしょうね。
野村氏:そうですね。消費者の行動の中に、カーボンニュートラル・脱炭素の種がたくさんあります。「オンラインで会議をするのか、リアルで会議をするのか」「どの乗り物に乗るか、どの移動手段を選ぶか」という判断・行動が、『こつこつ(CO2CO2)』というアプリひとつによって変わっていきます。「だれかに褒められるというわけではないけど、すると良いこと」に、ぜひ気づいていただきたいですね。
「移動の脱炭素」の他にも、「プラごみ対策の脱炭素」としては、海や山のゴミ拾いをするという行動変容や、そもそもごみを出さないようにするのはどうすれば良いかを考えるなど、様々なカテゴリーがあると思います。他人事だと、豊かな発想が生まれません。自分事にして、自分たちで考え、発想を生み出していく。自分のアイデアが、新事業や新商品になるかもしれない。そうやって未来をつくれれば、世界はもっと良くなるのではないでしょうか。その可能性を消さないようにしたいですね。
健康についてもそうですが、「良いとわかっていてもやらないこと」ってたくさんあると思います。環境についても同様で、「良いとわかっていてもやらないこと」を「良いと思ったらやってみる」に変えていけるサービスを、今後もリリースしていきたいです。
連鎖的に社会課題を解決する「解決ドミノ」
――『たたたん!』は地方創生もひとつのテーマだと思いますが、地域の課題を自分事にすることで『EARTHSTORY』とのシナジーも今後出てきそうですね。
野村氏:そうですね。例えば、有機農法をやってみたいという農家はたくさんいて、化学薬品を使わない、あるいは使用を減らすということはCO2も減っているわけです。それを可視化し、ボランタリークレジット化して取引できるようにする支援もしていきます。これは、農業畜産のDX推進にもなり、『たたたん!』にもつながる取り組みです。きちんと考えて設計すれば、一次産業のDX推進、生産性の向上、収益性の向上、過疎化対策、雇用創出など、他の課題も連鎖的に解決できると思います。良い意味でのドミノですね。
――そんな連鎖を各地で起こせれば、とても良いですね。
カーボンニュートラル社会のインフラをつくっていく
――2020年の日本政府の宣言以降、「ゼロカーボンシティ宣言」をする自治体も増えていて、カーボンニュートラル社会の実現に向けて一歩一歩進んでいる印象があります。一方で、かつてのエコブームのような「ブーム感」もあるのですが、野村さんはどう感じていらっしゃいますか?
野村氏:ある種の「可視化ブーム」という側面もあると思います。CO2をどれだけ排出しているか算定することは大事ですが、それに終始してはいけない。一時的なブームや、間違った方向にいかないよう、私たちがカーボンニュートラル社会のインフラとなり、本来の目的を見失わないようにしたいですね。特にカーボンクレジットに関しては、暗号資産のブームのような投機的、マネーゲーム的にならないようにしたいです。
また、小さな一歩も大事なのですが、次の一歩も重要です。一歩進んだだけで留まってしまってはいけません。日本は、良くも悪くも丁寧すぎる面があります。丁寧さも必要なのですが、「次に進めよう」「だれもやってないなら、前例がないなら、自分たちでつくっちゃおう」という勇気も必要だと思います。あら捜しややらない理由は、いくらでもつくれてしまうわけですから。
今後、『こつこつ(CO2CO2)』以外にも続々と新しいものをリリースしていきたいのですが、そのためには人材が欠かせません。「事業開発をしたい人」や、ソリューション営業的に「マーケットをつくっていく思考のある人」「トライ&エラーのできる人」は、フィットすると思います。正解や決まった型がない仕事なので、面白く取り組んでいただけるのではないでしょうか。
私たちは、「大人のスタートアップ」ですので、学識研究者などの専門家ネットワークも豊富です。2023年の11月には、脱炭素対策の共創とボランタリークレジット市場の活性化を目指すための脱炭素経営イニシアティブを設立しました。設立記念セミナーでは、私の恩師で弊社のアドバイザーであり、J-クレジット制度認証委員会委員長でもある東京大学大学院工学系研究科の松橋隆治教授に講演していただきました。専門家の中の専門家が揃っているので、エビデンスのある事業展開が可能です。
このインタビューを読んでいただき、少しでも私たちの取り組みに共感いただける人がいれば、ぜひ一緒にお仕事をしたいですね。
――私になにかできることがあれば、ぜひご協力させてください。本日はありがとうございました。