松屋フーズでは2016年4月に、自宅から通える店舗で夜勤をしなくても働ける「ワーキングマザー社員制度」を導入した。店舗で働く営業職の女性が少ないこともあり、まだ制度の活用者はいないが、土台づくりは先行して着々と進めている。前回に引き続き、松屋フーズ人事総務部長の丹沢紀一郎さんに話を聞いた。
アルバイトやパートを上手に活用して店を回す
「ワーキングマザー社員制度」を利用すると、勤務地は自宅から1時間以内の店舗に限られ、勤務時間は8時~22時のあいだで自由に選べる。夜勤に入れない社員がいれば、その分ほかの人にしわ寄せがいってしまうのではないだろうか。
そんな素朴な疑問をぶつけてみると、「同じエリアの中にワーキングマザーばかりが集まらないよう職場配置し、社員以外の人のシフトの組み方を工夫する」と答えてくれた。実際の店舗運営は、学生や主婦などさまざまな人が担うパートやアルバイトが中心。深夜帯をカバーしていく予定だという。現時点では営業職の女性の数が少ないため、そこまでの心配はしていないとのことだ。
制度はすでに社員へイントラネットで通知済み。今後は理解を深めるために、女性活用の部分での教育なども進めていきたいという。
ちなみにワーキングマザー社員制度ではないが、2015年度からは女性社員の深夜時間帯の勤務についてガイドラインを設け、勤務時間帯に一定の配慮をしている。営業職の女性社員の深夜時間帯の勤務は月に23~24時間程度(2015年度)。大体、月に4日夜勤をしている計算だ。「女性が男性と同じように働けるといっても体力的なハンディもあるので、一定の配慮は必要だろうということで始めました」。従業員の労働状況は毎月チェックし、必要に応じて店長やその上のエリアマネージャーにシフトの再検討などを促すそうだ。
女性管理職の割合、数値目標を決定
ところで、ワーキングマザーを悩ませるのが子どもの急な発熱。サービス業ではデスクワーク以上にシビアな問題となるが、同社では「通常、店長は2~3店舗を兼任しているため、店舗間で調整することが多いですね」とのこと。A店で急に休む人が出たら、B店からヘルプの人員を出すといったこともあるそうだ。パートやアルバイトに主婦が多い店舗の場合、主婦のパート同士でシフトを交代するなど助け合っていることも多いという。
「管理職になると配下の部下が増える分、より融通を利かせやすくなる面もあります」。同社では管理職に占める女性の割合を現在の4.7%から2018年度末までに10%にするという目標を掲げている。もちろん、ワーキングマザー社員制度を使うことが、出世や人事評価に影響することは一切ないそうだ。
女性の声でユニホームやメニューも拡充
制度導入のきっかけとなった「女性活躍推進プロジェクト」の目的は、女性社員の労働環境の改善だけではない。店舗のサービスやメニューについて女性の意見を取り入れることも大きな目的になっている。以前は忙しいサラリーマンの客がほとんどで、スピーディーにリーズナブルに食べたいというニーズが高かった。しかし最近は、女性やファミリー層が増えていて、幅広い客層に受けるような店舗作りを進めているという。
例えば、2016年3月にリニューアルオープンした久我山店(東京)は、オシャレな内観で女性でも入りやすい雰囲気。同プロジェクトから生まれた女性向けメニュー「スープごはん」も提供している。メニューだけでなくユニホームも女性の声を取り入れてリニューアルした。下着が透けにくく、動きやすいものへと順次入れ替えを進めているところだという。
同プロジェクトは2016年度も7月からあらためて発足させ、女性社員が活躍しやすい施策や女性向けサービスなどを検討していくそうだ。1割しかいない女性社員の声に真摯(しんし)に耳を傾ける同社。フードサービス産業というと、「ママが働くのは大変」というイメージを持つ人かもしれないが、時代とともにどんどん変化しつつあるようだ。
【DATA】
正社員数: 1,177名(2015年3月末※女性が約1割)
平均年齢: 35.3歳
育児休業からの復帰率: 取得した場合はほぼ100%