プロクター・アンド・ギャンブル(以下P&G)では、2012年に「フレックス・アット・ワーク」というコンセプトを打ち出し、個人の裁量で働く時間や場所をかなり自由に選べるようになった。制度活用を推進するためにどのような取り組みが行なわれているのか。前編に引き続き、同社ヒューマンリソーシズ 人材開発 兼 ダイバーシティ&インクルージョン シニアマネージャー 山本真一郎さんに話を伺う。

成功指標を数値化しておくことで、公正に評価

勤務の時間や場所を社員の裁量に任せる場合、目の前にいない部下の働きを、いかに上司が正当に評価するかが課題となる。その点はどうなのか。「当社の人事評価は何を達成したかという”結果”でみます。基本的に”過程”は評価の対象にならないんですね」。つまり、働き方の違いが査定に影響を及ぼすことはないのだという。

同社では、年に1度、社員と上司で「今年何をするか」という5つの優先項目(目標)を決める。同時に「何をもって、その目標が達成できたととみなすか」という成功指標も決めるのだという。「成功指標は数値ベースで具体化しておくのがポイント。数値化することで社員と上司の認識も合わせられ、客観的かつ公正に評価できるからです」とのことだ。

会議の目的とゴールも常に明確。"効率"を意識した社員が多い

目標はだいたい少し高めのゴールを設定される。”ちょっとがんばったくらいでは達成できないが、ものすごくがんばれば手が届く”というレベル。社員は日々、目標を意識して働いているため、自由な労働スタイルになったからといって「ラクをしよう」とか「サボろう」いう発想にはならないのだという。

この評価制度を運用するには、上司の能力がカギになる。「難しいけれど到達可能なゴールを部下と一緒に設定できるか、結果を出すための仕事のサポートができるかが大切。管理職であれば、自身の5つの優先順位の1つには必ず”部下を育てる”ことが含まれます。自分だけではなく、チームを育てることが自分の評価にもつながるんです」。

そのため、上司の能力開発のための研修プログラムも充実。また、人事部門が管理職に働きかけ、管理職から率先して制度を利用するように促しているそうだ。「リーダーがやるなら、みんなもやらなきゃ」という雰囲気を作りたいのだという。

電話会議ですむところを、あえてビデオ会議に

PCがあれば自宅でも世界中のどこでもビデオ会議ができる

柔軟な働き方をサポートするためのインフラ整備も進んでいる。パソコンさえあれば、どこにいても世界中の社員とすぐにビデオ会議が始められるし、社員同士が常時つながれるチャットシステムも整備されている。チームメンバーのスケジュールは、MicrosoftのOutlook(予定表)を使って共有しているそうだ。「あの人なんだかずっといないね、とならないよう、事前により透明性をもってスケジュールを共有するということを意識するようになりました」。電話会議ですむところを、あえて顔の見えるビデオ会議にするなど、社員が自発的に気づかいをすることも増えてきたそうだ。

女性がキャリアを考えるための取り組みも多彩

女性が自身のキャリアについて考えられるイベントが多いのも同社の特徴だ。たとえば、部署ごとに不定期で開催される「キャリアデー」もそのひとつ。女性の多い職場では、女性のリーダーが話をし、悩みを共有しながらキャリアを考えていくそうだ。

また、「ライフマッピング」というトレーニングもある。「自分の人生にこれから何がおきるのか」「そのとき自分は何歳か」「子どもはいるのか」「もしビジネスチャンスがあれば転勤をするのか」などさまざまなシュミレーションしておく。そういう場面がきて初めて考えるのではなく、あらかじめ考えておくことで人生計画も立てやすくなるのだという。

さらに今年3月からは若手女性を対象に、キャリアを考えるためのトレーニングもスタート。「ライフチェンジを機にキャリアを追求することをやめてしまったり、挫折してしまったりする女性は、減ってはいるものの、まだいるのは事実。結婚や出産をした女性社員でも部長や本部長として活躍していくことを考えると、まだやらなければならないことがある」と山本さん。

外資系ということもあり、柔軟な働き方が企業文化として根付いている同社。制度は男女問わず使えるし、社内にいて「女性だから」と意識することはほとんどないそうだ。「女性だから」という理由でキャリアを断念する時代は、そろそろ終わりに近づいているのだろう。

【DATA】

正社員数: 約3,500名(女性が6割強)
平均年齢: 非公開
育児休業からの復帰率: 96%