昔懐かしいムードを醸し出すサイフォン。コーヒー愛好家ならずとも「あのレトロな雰囲気が好き」という人は多い。しかし、今ではコーヒー専門店でも見かけることは少なくなってしまった。そんなサイフォンを自宅で使ってみようというコンセプトのもと、今回は東京・雑司が谷にある「リールズ」の宮宗俊太さんにサイフォン抽出法を教えていただく。

東京・雑司が谷にある「リールズ」

前述の通り、専門店でも見かけなくなってしまったサイフォンだが、その理由を宮宗さんはこう考える。「サイフォンが廃れていった最大の理由は、ペーパードリップが手軽にコーヒーを淹れられる器具として支持されたからでしょう。また、サイフォンの正しい使い方が普及しなかった事も原因のひとつだと思います」。きちんとした使用方法さえマスターすれば、同じ味のコーヒーを何杯も同時に淹れることができるのがサイフォンのメリットとのことだ。

今回はサイフォンを使った抽出に挑戦!

そんなサイフォンの長所を教えてもらいつつも、やはりサイフォンといえばその外見に心が惹かれてしまう。理科の実験用具のようなフラスコとロートをセットし、ガスバーナーやアルコールランプで加熱する。ゆらゆらとした炎がなんとも幻想的……。そんなサイフォンで安全にコーヒーが淹れられるよう、ここからは詳細に抽出方法を解説していく。

※店では、フラスコに入れた湯を加熱する熱源としてサイフォン専用のガスバーナーが使われるが、ここでは一般家庭でも導入しやすいアルコールランプを使用する。

サイフォンでコーヒー抽出

淹れ方を紹介する前に、まずはサイフォンの主要部位の名称を覚えておこう。球形の部分が「フラスコ」、ガラスの円筒形の部分が「ロート」である。実際に抽出する際には、ロートをフラスコに差し込んで使うのだが、もう1つセットするものがある。それは濾過器。ロートの底に取り付けるもので、フィルターの役割を果たす。濾過器には専用の濾過紙もしくは濾過布をセットするのだが、「手間のことを考えると、使い捨てできる濾過紙をおすすめします」。基本的な構造を覚えたところで、いよいよ抽出に入るとしよう。

1.フラスコに沸騰させた湯を入れる。フラスコが温まったら、湯を捨てる。
2.次は抽出に使用する湯をフラスコに注ぐ。フラスコに表示してある目盛りの少し上まで湯を入れる(ここでは2人分)。その後、フラスコに付着した水分を拭き取る。
3.ロートに濾過器をセットし、玉鎖のついたフックをロートの管にひっかける。
4.ロートにコーヒー粉を入れる(ここでは2人分なので、専用スプーン2杯=24g)。
5.フラスコにロートを斜めにさし込み、ロートのゴムのフチをフラスコの口に引っ掛けるようにセットしておく。フラスコの口にロートを完全に密着させるのではなく、必ず隙間をあけておくこと。
6.アルコールランプにアルコールを入れて芯を5mmほど出してから点火し、フラスコの真下に置く。
7.加熱が進み、フラスコの底から気泡が連続して出てきたら、ロートをまっすぐ立ててフラスコに軽くさし込む(この時、フラスコ内の湯温は約93℃。ロート内に上がった湯は温度が約10℃低くなる)。
8.ゆっくりとフラスコからロートに湯が上がっていく。半分ほど湯が上がったところで竹ベラを持ち、ロート内に浮き上がったコーヒー粉を底に沈めるような感覚で押し下げる。
9.竹ベラで充分にコーヒー粉をほぐしながら撹拌した後、ロート内でコーヒー粉の層をつくるために左回り2回、右回りに3回ほどまわす。ここからストップウォッチで秒数を計る(ここでは2人用なので60秒。3人用なら50秒、5人用なら40秒が目安)。
10.時間が経ったらアルコールランプを外し、抽出完了を待つ。抽出終了後は、ロートを外してロート立てに置き、フラスコを軽く揺すってコーヒーを混ぜてからカップに注ぐ。
11.完成したコーヒー。

最大のポイントは手順9。初めは湯の中でコーヒー粉を泳がせるように混ぜ、その後はクルクルと回していく。これは、遠心力を使ってコーヒーの粉を"それぞれ"の比重毎に分離させるためである。分離させたコーヒー粉はロート上部から順番に、雑味の原因となるアクやチャフ、湯よりも軽いコーヒー粉(コーヒーに内包しているガスを放出している)、抽出中の湯と混ざっているコーヒー粉、などの層をつくっている。そして、その後は決して攪拌しないことが大切だ。

その理由は、この段階で上面に浮かんだコーヒー粉は、旨み成分が出きって雑味を含んだ状態のものであるという点にある。もしここで再度攪拌すれば、雑味の成分が抽出中の液体に流出してしまい、味が悪くなってしまうので注意しよう。

さらに、安全に抽出するためには手順2、3も重要となる。フラスコに水滴が付着したまま過熱すると、フラスコが割れてしまう恐れがある。また、手順3で登場する玉鎖は、突沸防止のためのものなので、きっちりとセットしてもらいたい。

宮宗さんは「珈琲サイフォン」製のSKD型サイフォンを使っていて、一般の方も購入可能(2人用が12,180円、5人用は13,650円)。喫茶店のマスターになった気分で、ぜひサイフォンでの抽出にチャレンジしてもらいたい。