今回のテーマは「梅雨」だ。梅雨に限らず、もはや雨というのは、町内清掃を中止にしてくれる以外は全く歓迎されないものである。

しかし、雨も降るべき時に降らないと「1玉800円のキャベツ」とか、ツイッターに投下する以外全く使い道がない物が爆誕してしまうため、結局自分たちのために梅雨も雨も必要なのである。

しかし、梅雨の嫌なところは雨だけではない、気温だ。

私はこの5月末で会社を辞め無職になったので、もはや関係ないのだが、OLとして6月は鬼門だった。まず6月から、制服が夏服になる、つまり半袖だ。

「6月は夏」はさすがに言いすぎではないだろうか、思わぬ過大評価に6月さんも困惑であろう。

さらに梅雨である、太陽が出ているか出ていないかでは、体感温度に大きな差がでるのだ。 つまり「下手をすれば5月より寒いのが6月」である。

それにも係らず、突然半袖、やっていることが、真冬に半袖の小学生と変わらない元気さだ。

それも小学生なら良いが、当方は中年女性である、単純に「身体に堪える」のだ。 よって半袖の上に、冬物カーディガンを着ることになる。

勝負下着みたいな服の上に毛皮を羽織る海外セレブみたいなスタイルだ。

私がステイサムだったらそれでいいが、ただの中年がやると「暑いのか寒いのかはっきりしろ」と言われてしまうやつである。

ちなみにステイサムが勝負下着に毛皮を羽織っているところは見たことはない、今後に期待だ。

さらに6月というのは、ボチボチ社内にエアコンが入れられる時期である。

私はそれに対し、半袖にカーディガン、ろくろを回すポーズでこう思っていた。

「時期尚早でないか」と。

女は男より寒がり、と言われているし、冷え性も多い。 つまり、社内一の暑がり野郎にエアコンの采配を任せると、大体の女が凍死する

しかし、男女雇用機会均等とか、セクハラとか、改善されているとは言い難いが問題として認識されつつこれらに比べ「社内の気温」にまで平等性を持たせているところは少なく、暑いと思った奴が「暑いよねー!」と言いながらエアコンのスイッチを入れ、一介のOLは異論をはさむ余地すらない、というのが現状だ。

また、これには席の位置も多いに関係する。エアコン通風口の真下など完全に「寝たら死ぬ」という環境だ。

よって、会社を辞めて嬉しいことは金銭的なこと以外なら多々あるが「気温を自由に操れる」という点が非常に嬉しい。

無職になった途端、異能力に目覚めたみたいになってしまっているが、空調や暖房器具を誰に遠慮することなく、オンオフできるということだ、服装も暑い日は全裸、寒い日はパンイチなど、これも周りを気にする必要がない。

だが一方で、どれだけ社内がキンキンに冷えていようが、その光熱費は会社持ちだった、自宅で同じことをしようと思ったら全部自費である。

会社というものは、給料以外にも出してくれているものが結構あったのだ、と辞めてから気づくことが多い。

私は四季問わず、ほぼ外出しないため、梅雨の嫌なところは、主に気温と湿度だが、もちろん雨自体も嫌ではある。

何故なら私は傘を持っていない。

昔、他所でやっていたコラムに「ブスは傘をささない」と思い付きで書いたが、あれは結構的を射ていたような気がする。

もちろん、ブスと言えども、手刀で全部雨を跳ね除ける武闘派ブス以外は雨の中、長距離移動するなら傘をさすだろう。

だが「ちょっとの距離」の場合ささない、数十秒のために傘をさすのが面倒くさいのだ。 この「ちょっとを面倒くさがる」の積み重ねでBP(ブスポイント)を稼ぎ、スタンプカード満タンで「ブス」を手に入れているのである。

私も例に漏れず、ちょっとどころの雨じゃなくても面倒くさがって傘をささない女だ。

先日、一時期入院していた母方のババア殿を見舞うため、結構な雨の中、母と兄と私とで、病院に行った。

駐車場に降り立った時点で、誰も傘を持ってきていないことが判明したのだが、お互い何も言わなかった、そもそも、全員駐車場から病院入口までの短距離に傘の必要性を感じていないのである。

「完全に遺伝」

雨の中、三人で悠然と病院まで歩きながら、そう確信した。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。