漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

→これまでのお話はこちら


今回のテーマは「冬支度」である。

ひきこもりに季節の質問というのは、ひと昔前であれば非リア充にクリスマスの予定を聞くようなものであった。

ただそれは昔の話であり、現在同じ質問をすれば「予算は30万」などの答えが返ってくる。

クリスマスは刀剣乱舞以外がクリスマス限定ガチャを開催するので、もはや最近の非リア充はクリぼっちどころか「誰を選ぶか」の段階なのである。

このようにスマホの中では春夏秋冬が目まぐるしく巡っている。しかし、そのスマホを持っている奴の服装は一切変わっていないのだ。

季節の準備と言えば、まず寒暖に対する備えであり、冷暖房器具をしまい冷暖房器具を出すと言うコブラムーブをするところからはじまる。

つまり、扇風機とストーブはお互い出会うことはない、ホッキョクグマとペソギソのような関係のはずだ。

しかし、世の中にはその両者が共存している、生態系を無視した部屋が割と存在する。部屋に両方を常設することによりその部屋は「冷暖房完備」となり、むしろ家賃が5,000円は上がるアップグレードなのだ。

しかも最近の地球は、9月になった途端「夏は終わった、つまり冬」という気温になったり、それに対する苦情を受けて「次の日真夏に戻す」など、アップデート翌日にアップデート前に戻すクソアプリのようになったりしてしまっている。

そういうアプリに対応するには「アップデートしない」のが一番だ。

ウインドウズもアップデートするたびに「アップデートするとこのような不具合が起こるからアップデートするな」という注意喚起が起こる。

扇風機をしまいストーブを出すというのはアップデートであり、それをすることにより「急に8月中旬の気温に戻る」に対応できなくなる恐れがある。

アプリやソフトは必ずしも最新バージョンが使いやすいとは限らず、自分にとってのベストなバージョンで止めておくというのも大事なのだ。

つまり「扇風機とストーブが両方あるver」が自分にとって最適ならば、そこから動かす必要はないのだ。

ただそのバージョンを維持するには「部屋が狭くなる」「だらしない性格が物理で見えるようになる」という不具合が起こるのだが、「寒暖両対応」というハイスペックルームが手に入るならそのぐらいの不具合は許容の範囲だろう。

私も今の家に引っ越してからしばらくそのようなVIPルームに暮らしていたのだが、夫に「貴様如きにその部屋は分不相応である」と思われたのか、部屋にエアコンを設置されてしまったので、今はそれだけで1年を乗り切っている。

だがそのおかげで今までストーブや扇風機を置いていたスペースにもゴミを置くことが可能になった。

つまり私の部屋はエアコンを導入したことにより30リットルのゴミ袋から45リットルのゴミ部室にアップグレードしたということである。

これは良いアップデートなので、もし「もっと部屋にゴミを置きたい」という人は床置きの冷暖房器具を廃止してみるのをお勧めする。

しかし、それすら最近容量不足になってきているため、仕事机やパソコン、もしくは自分を削除することにより、さらに容量を増やすことを計画中である。

そして、冷暖房器具の出し入れの次の季節の準備と言えば「衣替え」と思われる。

しかし、私は今年、冬の衣替え以前に夏の衣替えをしていないため、このまま冬に突入していく予定だ。

では夏に冬服を着ているという、腕に無数の切り傷や殴打跡がある人のような生活をしていたかというとそうではない。

冬になると、ヒートテックなど暖かい肌着を着用する人も多いと思うが、夏の間はそれをアウターとして使用していたのである。

去年までは「自分のキャラや自分の顔が描かれたTシャツ」などを出して着ていたのだが、今年急激に老化してしまい「夏と言えども夏服は辛い」という状態になったため、ヒートテックを1番上に着ているのがちょうどいいという状態になってしまったのだ。

しかし、体が老化したことにより「衣替えの必要がなくなった」という進化も同時に果たしているのである。

日本は若さの価値が高い国である。

確かに若さには価値がある、だがその価値観のせいで「年を取ったものには価値がない」という話にもなりがちだ。

確かに、年を取ったことで失うものは多い。しかし老化で「行動力」が落ちることにより「いらんことをする回数」も減っているのである。

アプリをアップグレードすれば使いやすくなるわけではないように、体も老化でグレードダウンしたことにより必ず使いづらくなるというわけではなく、機能が落ちたことにより使いやすくなる点だってあるのだ。

大事なのは自分が機能にあった使い方をできているかどうかである。: