今回のテーマは「部活」である。

高校時代は漫研として、オタクとしての青春を謳歌(おうか)したと言いたいところだが、残念ながら帰宅部だったので、オタクとしても「無」のまま3年過ごした。しかし、後に同級生が私のことを「とにかく放課のチャイムがなったらすぐ帰る人」というイメージだった、と語っていたので、帰宅部としてはエース、超高校級の実力を持っていたようだ。もしくは、「帰るのが早い」以外、私の印象が全くなかったのかもしれない。どうやら、自分だけでなく他人にとっても私は「無」だったようだ。

では、中学時代も帰宅部かと言うと、運動部に入っていた。しかも、ソフトボール部だった。帰宅のスピードでしか自分を表現できないオタクが、なぜそのような骨太な運動部に、と思われるかもしれないが、これには深いワケがある。

私が中学生の時にはスラムダンクが大人気だった。私もバスケのルールはよく分からないが、とにかく三井のことが好きなのは確かだし、ダブルドリブルやトラベリングは得意だったので、バスケ部に入ろうとしていた。

だがその時、テレビで「タッチ」の再放送をやっていたのだ。それを見て、「南を甲子園に連れて行こう」と思った結果が「ソフトボール部」である。中学生というのは、人生の中で一番愚かな時期と思われがちだが、もっと想像を絶して愚かなのである。

しかし、問題は「スラムダンク全盛の時にタッチブームが来たやつ」が私を含めて4人しかいなかったという点である。「俺たちが南を甲子園に連れて行こう」と誓い合ったところで、4人ではまずチームがつくれないのだ。

チームスポーツというのはまずメンツがそろうまでが大変なのだ。スラムダンクだって、最終的なレギュラーの三井が入るまで8巻ぐらいかかっていたはずだ。私の漫画は平均3巻ぐらいで打ち切られるので、そんなペースでやっていたらメンバーそろう前に、「俺たちのバスケットボールはまだ始まったばかりだ」で終わってしまう。

漫画家になった今だからこそ、「スポーツ漫画をメンバーがちゃんとそろうまで続けられるのはすごい」ということが分かった。自信がない場合は、題材をひとりでできるスポーツにした方がいい。テニスの壁打ちとかなら「ついに理想の壁に出会った……! 」でいつでも終わらせられる。

ともかく、私たちの世代は4人しかいなかった。もちろん、先輩世代はもう少し人数がいたので良かったのだが、それが引退した後が問題である。しかし、その次の年、新入部員が15人くらい入ったのだ。タッチの再放送はすでに終わっていたのに、なぜそんなに入ったか分からないが、とにかく入ったのだ。

これで、ソフトボール部の存続は安泰となったが、また別の問題がある。われわれが4人しかいないので、9人のチームを作ろうと思ったらすでに半分以上が後輩になるのだ。そしてさらに、「私がポンコツ」という深刻なエラーがあったため、早々に私よりも後輩がレギュラーに入る方が多くなった。そしてもうひとりはスコアラーをやっていたため、9人チーム中7人が後輩という事態になる。そうなると何が起こるかというと、「先輩風が吹かせられない」のだ。

中学というのは、一番、先輩風をT.M.Revolutionぐらい吹かすことができる。高校ぐらいになると、「先輩だからってどうということはない」「そういうの嫌だから帰宅部」という知性がつく。しかし、中学生というのは上記のように馬鹿オブ馬鹿なので、割と「先輩は後輩に偉そうにすべし」「先輩の言うことは聞くべし」みたいな風潮を真に受けているため、どんなポンコツでも先輩になれる。「吹かすなら今しかない」のである。

しかし、それでも「数の利」というのはでかい。もともと後輩の方が圧倒的に数が多い上、ポンコツと来たら、尊敬される理由がない。むしろかなり舐めれていた。よって私は、一番「先輩」になれる時期に先輩になれなかった。その経験があったからかは分からないが、今でも会社などで後輩が入った時も「一貫して敬語」である。

この「誰に対しても敬語」というのは、コミュ症の特徴のひとつでもある。礼儀正しいわけではない。敬語で人間関係にウォール・マリア級の壁を作っているのだ。または、「人によって言語を使い分ける」という高等テクなどできないため、「全部統一」でやり過ごしているのである。

漫画やアニメを見すぎていると、「中学生からが青春の始まり」という気がしてしまい、全く運動に向いてないのに青春のために運動部に入るという采配ミスを犯しがちだ。それが後々の人生に響くこともあるので、中学時点から自分に何が向いているか見極めていた方がいい。

私も中学時点で、自分の帰宅スピードが速いという才能に気づいていれば、帰宅部エースとして「カレー沢パイセン」と羨望の目で見られ、幼稚園児にも敬語で話すようなコミュ症にはならなかったはずだ。返す返すも残念である。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。