漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「公園」である。

実家のすぐ近くに公園があった、広くないが、砂場、ブランコ、滑り台、がある標準的公園だ。

本当に、徒歩2分ぐらいの近さだったのだが、道路を隔てていたため、しばらくその公園には大人同伴でないと行かせてもらえなかった。

ちなみにうちは長らくボットン便所だったため、便所も小学校低学年ぐらいまで大人の厳重な監視付き、だったような気がする。

1人公園と1人ウンコは大人の証なのだ。

家の目の前に公園があるというのは、子どもに言わせると「うちは立地が良い」ということになるのだが、小学校中学年ぐらいの時に、それとは別に新しい公園ができた。

その公園は広く、滑り台には、謎のコロコロがついていた。

今思えば、あれはケツが痛いだけだった気がするが、子どもにとっては、興奮のあまり泣いてもおかしくないギミックなのである。

我が村にとっては「デズニーランドができた」ぐらいの出来事であり、しばらくその公園は大盛況で遊具には列ができるほどであった。

その公園ができたことにより、我が家の前にある公園は「じゃないほうの公園」になってしまったのだが、今も存在している。

そして、20歳ごろに我が村が博覧会の会場となり、ドームと、かなりの面積の自然公園が作られた。

当初は「博覧会が終わったらどうするのか」「我が村のポケットにはでかすぎるのではないか、なあクラリス」と言われていたが、現在でもイベントや、散歩する場所として地元民に使われている。

私も、第二次無職期の時、そこにジョギングに行っていた。

その公園がなかったら、そこら辺を無軌道に走りだして、通報されていたかもしれない、私はその公園に社会的生命を救われたのだ。

そして今では、夏の音楽フェス会場としても使われている。

婦人会によるマンドリンや、地元中学吹奏楽部によるジブリ音楽演奏会ではない、ちゃんと有名アーティストが来るやつだ。

ティーンの時「チャリで行ける距離で夏フェスが開催される」と聞いたら、興奮で滑り台にコロコロがついていた時のように泣いていたと思う。

しかし、残念なことに、そのフェスが始まった時、私はすでに結構な年だった。

よって「夏にそんな場所に行ったら死ぬ」という理由で、1回も行ったことがない。

若いころ、何かを断念する理由といったら主に「金がない」だったと思う。だが年をとるとそこに「時間がない」「体力がない」がログインしてくるのだ。

そして「金がない」という問題が解消されるかというと、むしろ大きくなった。

このように年をとると「やれる条件」は揃っていても「悪いことは言わないから、やめておいた方が良い理由」の方がそれを凌駕して、結局やらない、ということが増える。

特に体力がいることは若いうちにやっておいた方が良い。

そして、有名アーティストが来ているはずなのに、流行についていけてないせいで「半分以上知らないアーティスト」になってきたのも大きい。

すでに、マンドリンや、ジブリの方が自分に「近い」のだ。ただし、ジブリも最新のをやられると厳しい。

ちなみに、今の自宅の前にも公園はある。

公園といっても遊具は一切ないので、ただの広場なのだが、近所の子どもはそこに集まって遊んでいる。

よって、私は15時から18時の、子どもが学校から帰ってきて外で遊んでいる時間は、あまり外に出ないように気をつけている。

私の住んでいる団地は新興住宅なので、子どものいる家庭がほとんどなのだ。

子どもがいる家庭は、自然にお互い顔見知りになるだろうが、その中において、我が家だけ「〇〇ちゃんのお母さん」というアイデンティティがない。

つまり未だに「誰や君!」のレベルなのである。

子どもがいる時間帯に、正体不明の人物がその辺を1人でうろついていたら、周囲に不安感を与えてしまう。

近所と仲良くするのは引っ越し4日目ぐらいで諦めたが、脅威になりたいわけではないのだ。

よって「ゴミ捨ては暗くなってから」などの配慮をしている。

それに、この団地は数十年後老人だらけになるのだ。つまり「身元不明の人が徘徊している」が日常風景になるはずなのである。

そうなったら私がうろうろしていても目立たないはずなので、その時まで待とうと思う。

木を隠すなら森、不審行動を隠すのは集団不審行動である。

しかし、無職になり、日中家にいるようになってわかったことは、今の子どもも割と外で遊んでおり、そして18時に一斉に帰る、ということだ。こういうところは昔から変わっていない。

だが、外で見かけるのは当然、外で遊ぶ子どもである。中には「一切外で遊ばない子ども」もいるだろう。

そういう子どもが大人になって私のような「身元不明の人」になるのかもしれない。

そういうところも、昔から変わっていないのだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。