漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「オリンピック」だ。

ご存知のとおり、未だに「本当にやるつもりなのか?」という空気が拭えないが、来年2020年に東京オリンピックが開催される。

まず、開催が決定した2013年9月ごろ「7年後なんて生きているかどうかわからない、と言いたいが、多分恥も外聞もなく生きている」と予想したのだが、今のところ見事的中している、ちなみにオッズは0.5だ、逆に没収だ。

  • オリンピック

田舎にいるとまったくオリンピックの風を感じないが、東京ではすでに着々と準備を進めている、ようには全く見えない、と東京にいくたび思うのだが、本当にやるつもりなのだろうか。

しかし、平素でも東京は外国人の数が非常に多いので、オリンピックになってももはや都民は大きな違和感を覚えることはないのかもしれない。

しかし外国人が増えた、というのは割と都会の方だけであり、私が住んでいる村ではまだ「珍しい」の部類なのだ。

そんな村で数年前、ある国際的な催しが行われてしまい、諸外国から外国人が多数我が村にやってきた。

例えば、私にとってはニューヨークもネバタも同じアメリカである、ケントデリカットのおかげでユタ州が若干一線を画しているのはわかるが、どこが都会でどこが田舎とかはあまりわからない。

それと同じように外国人も一つの「日本」というイメージで来日するので、村の1階建てヤマダ電機に秋葉のヨドバシと同じノリでやってくるのだ。

村に唯一あるショッピングモールも同じような状態で、知り合いが買い物に行ったところ店員が「久しぶりに日本人と話しました……」と涙をこぼしたという。

しかし、こんな村でも、これから少子高齢化による労働力不足で外国人の人口は増えていくだろう。我々も英語の一つでも覚えるよう努力したほうがいいかもしれない。

だがその前に、たとえ村中が外国人だらけとなり10カ国語が飛び交うようになっても、部屋から出なければ誰とも話さなくていいので問題はないのだ。

このように「部屋から出ない」というのは全世界共通の国境を越えた解決策なのである。

話は逸れたが、私は今までオリンピックをまともに見たことがない。

落ち着きがない性格上、じっとテレビを見ることが難しく、特にスポーツ観戦には向いていない。

映画とかなら、「ジェイソン・ステイサムがサメをぶん殴る」とか「サメがサミュエル・L・ジャクソンを食う」とか、必ず集中力が爆上がりする「山場」が来るとわかっているから、退屈なシーンでも見続けることができる。

しかし、スポーツは良くも悪くも筋書のないドラマだ、ステイサムとサミュエルが延々ボールをパスし合ってサメが登場しないまま、引き分けで終わるという試合もあるのだ。

あるかわからん山場を待って画面を見続けるというのは、3歳児歴33年の私には難易度が高い。

しかしオリンピックほど「アレ」を利用できるイベントもない。

アレとはもちろん「無職」だ。

東京オリンピックは時差がないので、深夜や明け方に起きて見る必要はないが、逆に言うと日中会社勤めなどをしている人間はオリンピックを全てリアルタイムで見ることは不可能である。

だがそれが可能な人間がいる。そう、無職ならね。

今私は世界一黒のタートルネックが似合う面構えをしているわけだが、スポーツ観戦に興味はなくてもオリンピックは「無職マウント」を取る絶好の機会なのである。

そんなわけで、東京オリンピックについて今更ながら調べてみた。

全33種目で、サーフィンやスポーツクライミングなど今回からの新しい競技もあるようだ。

選手にとってもオリンピックに出場するのは夢だろうが、スポーツ自体も「オリンピック競技になる」というのは大きな目標なのかもしれない。それとも紅白歌合戦のように「あえて参加したくない」というスポーツもあるのだろうか。

しかしスポーツというのは基本的に金がかかるのだ、走るだけでも土地がいる。

「その場から動かず全裸で回転し続ける」という競技でも生まれない限りは、場所も道具も遠征費もかかるし、強くなろうと思ったらさらに金がかかる。マイナースポーツの現場はいつも厳しいと言う。

よって「人々の注目を集め人気スポーツになる」というのは競技にとって非常に重要なことなのである、そうすればスポンサーが集まるからだ。

毎回「イケメン過ぎ美女過ぎ選手(言うほどか? と叩かれるまでが1セット)」が勝手に生み出されるのも、「人気選手」がスポーツの人気にも直結するせいかもしれない。

ところで今回の新種目「サーフィン」は一人ひとりやるものかと思ったら、4人ずつで行うらしい。

よって、波に乗らないフリをして乗ったり、パドリングするフリをしてしなかったり、という駆け引きも重要になってくるそうだ。

スポーツというのは正々堂々の代表のように言われるが、その内容は割と「相手を欺くことが重要」だったりするのは気のせいか。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。