今回のテーマは夏休みである。

小学五年生の夏休みのウンコを漏らした、それ以外は覚えていない。それ以来漏らしていないので(屁と間違えての誤爆はノーカンとする)それがLUM(ラストウンコメモリー)なのだが、そろそろ、加齢と共に色んなところが緩んできそうなのでUS(ウンコストーリー)第二章開幕の予感がする。

このように、学生時代の夏休みと言うのは無駄に40日もある上、当然、海だ花火だとはしゃぐ仲間もいなかったので、ウンコを漏らしたことが一番鮮烈に覚えている思い出になってしまっているのである。

社会人になるとこの40日あった休みが突然一週間弱の盆休みだけになる。冷静に考えると、よくこの落差にみんな耐えられると思う。こんな衝撃、全身が木っ端微塵になってもおかしくない。なのに夏に人間が爆散したというニュースは聞かないので、人間は割と丈夫に出来ているなと感心する。

休みが約10分の1になったことで、その分濃密な夏休みになったかと言うとそんなことはない。むしろ思い出作りのためにウンコを漏らそうかという勢いで空虚である。

実家を出るまでは、連載二回目に書いた通り、盆休みには父の実家である新潟に行っていた。つまり社会人になってからは夏休みの日数が激減した上に、その全てを親父の実家に軟禁されていたのである。よくこれで肉片にならなかったと思う。やはり人間は想像以上に頑丈だ。

そして結婚してからは、盆休みには夫の実家に行くようになった。と言っても夫の実家は新潟に比べたら激チカなため、泊まったりはしない。1日だけ、夫の両親と兄弟、さらにその家族が一同に会するのだ。

会して何をするかと言うと、BBQをする。

BBQと言えば、代表的リア充の所作だ。むしろBBQを擬人化したらリア充になったと言うほど、リア充のリア充によるリア充の遊びである。

そう書くと「なんだリア充じゃねえか」と思うかもしれないが、人はBBQをしたらリア充になれるというわけではない。BBQを楽しむことができる人間がリア充なのだ。むしろ非リア充が何かの間違いでBBQの輪に入ってしまうと、なんとも言えない所在のなさ、疎外感を覚える。

つまりBBQなんかに参加してしまったがために「集団の中の孤独」という、一人でいるより5兆倍つらい目にあうのだ。うさぎだったら一瞬で蒸発してしまうほどの寂しさである。

結局、海や花火、BBQというのは、非リア充のないものねだりの偶像であり、実際つかむと、もっと不幸になるのだ。これは現代の教訓系寓話「BBQにいったひりあじゅう」として誰か絵本化して欲しいとさえ思う。

今では自分がそういう人間だとわかっているので、仮に友人などにBBQに誘われたとしても「焼肉ならいく」「準備が終わった後に来て、後片付けがはじまる前に帰っていいなら行く」と言って、さらに友人を減らすことに成功しているのだが、さすがに夫の実家での催しをバックれることはできない。

別に夫側の親族とて、そんなにアグレッシブな人間が揃っている家ではない。だがこのBBQをやろうという発想があることに関しては、どうしようもない音楽性の違いを感じる。 何故ならカレー沢家の方は超インドア家系であり、上記の新潟旅行以外は家族で出かけたことなどほぼないのだ。

しかし、私も今でこそ一流の引きこもりだが、小学生ぐらいまでは世間一般のレジャーというものにあこがれており、親にキャンプに行きたいとせがんだことがあった。

父上が自分の私物を片付けられずに部屋を占拠した話は何度もしているが、彼は汚いのが平気というわけではなくむしろ「ゴミ屋敷在住の潔癖症」という、人と違った綺麗、汚いの概念を持ち、常に濡れタオルを持ち、一日中何かを拭いたり手を洗ったりしている人なのだ。そのため外で寝るなどもっての他であり最初から黙殺であったのだが、母上の方はそうは言っても子供に思い出を作らせてやりたいと思っていたのだと思う。そこで母上の考え出した折衷案は「自宅の庭にテントを張って寝る」だった。

マジで庭にテントを張って一泊したし、普通にはしゃいだ記憶がある。

今冷静思うと、これはご近所さんにどう思われていたのだろうか。ホームをレスする予行練習と思われなかっただろうか。私は自分の実家のことを「一般家庭」と思っていたし両親は「まじめな人」という認識であったが。もしかしたら、周囲から見ると「近所の変わり者一家」カテゴリだったのでは、と最近気づいてきた。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。