今回のテーマは「おこづかい」である。

つい最近貯金の話をしたというのにまた金の話である。これは「ババア殿がボットン便所に貯まったクソを畑に運んで小遣いをもらっていた」と言う話をもっと詳しく聞きたいということだろうか、担当の特殊性癖が垣間見える。

小遣いは、約5回運んで1,000円もらっていたので、1クソ200円ということになる。昨今ではあまり使わない単位だ。ちなみに、水洗便所なら「トイレットペーパー以外は流さないでください」であるが、ボットン便所というのは割とフリースタイルでなんでも捨てることができた。それが全てブレンドされたものを畑まで運んでいた。

その形状、臭いなどを私の全ボキャブラリーを駆使して説明してもいいが、それだとおそらく載らないし、喜ぶのは担当だけなのでここでやめておく。

では、それ以外の小遣いはどう得ていたかというと、小学生高学年あたりから、月1,500円もらっていた。今の小学生がいくらもらってるかは知らないが、当時としては十分だった。しかし問題は、ここから全く上がることがなかったという点である。二十歳になるまで月1,500円だったのだ。そりゃウンコも運ぶわという話である。

二十歳になるまで親に小遣いをもらっていたのかという話はいい。今だって1,500円やると言われたら喜んでもらうし、そのまま流れるような動作でグーグルプレイカードを買い、ガチャで即溶かすという、子どもの頃を遥かに凌駕したスピードで親に成長を見せつけてやることもできる。

しかし、小学生ならまだしも高校生になって1,500円はキツイ。学校帰りにマックやカラオケに誘われたらどうするつもりだ。ついて行けずにその内ハブにされるに決まっている。放課後マックやカラオケに誘ってくれる友人が皆無だったのが不幸中の幸いとしか言いようがない。

高校時代は、私の、「全部刺身パックに入っている菊でできたような人生」の中でも特に華がない。友人も少なかったし、かろうじてつるんでいたクラスメートもマックやカラオケとは無縁であり、ルーズソックス全盛の時代に全員ものすごく中途半端な丈の白靴下を履いていた。

じゃあ逆に一体何に金を使っていたんだと思うだろうが、もちろん「アンジェリークラブラブ通信」を買っていたに決まっている。

アンジェリークラブラブ通信とは何か。みんな知っていると思うが、野暮を承知で説明させてもらうと、乙女ゲームの先駆け「アンジェリーク」の情報誌だ。

何が載っていたかというと、ゲームの情報とか、出演声優のコラムとか、やたら多い読者投稿ページとか、今思えば何を求めて買っていたのかやや不明な点は多いが、私の菊の花高校生活においては刺身本体みたいな存在だったのだ。

しかし、それとて1,500円したわけではないし、多分発行も隔月だったと記憶している。じゃあ他に何を買っていたかというと甘いパンだ、100%買い食いに使っていた。

つまり、今と金の使いどころが全く変わっていないのである。しかし趣向が成長しないということは、パンやゲームを買っていれば満足であり、ブランド品などに興味を示すよりよほどコスパがいいように思える。が、今はソシャゲのガチャという、むしろ趣向と精神的成長がない者ほど落ちる地獄が出来てしまったため、未だに中学生みたいなパーカーを着ている上に金もないJPGおばさんになってしまった。

しかし、当時から何も成長していないというわけではない、前述通り金を溶かすスピードと額がものすごく上がったし、今も伸び続けている。1,500円しかもらえないということは、1,500円しか無駄遣いせずに済んだということなのである。それが、自分で金を稼ぐようになり、お小遣い制がなくなった今「俺を止める者は誰もいないという」散財無双になったのだ。

もちろん1,500円より多くなりはしても、手持ちの金には限界がある。何せ大人なのでクレカで今持ってない金を使ったり、キャッシングで自分のじゃない金を使ったりもできるのである。子どもの頃は1,500円という小遣いを不服に思っていたが、世の中にはいくつになっても1,500円以上与えてはいけない人間も存在する。

しかしそんな私の家計を今も昔も支えてくれている心強い味方がいる、それは「交際費ゼロ」だ。

もし高校時代マックやカラオケに誘ってくる友人がいたら、アンジェリークラブラブ通信を買うことができず、その金を得るために道を踏み外していたかもしれない。今だって、会社員と作家の兼業生活ができる最大の秘訣は「友達がいない」ことだ。休日予定がゼロだから、すべてを仕事に充てられるのである。

いかにも友は何ものにも代えられない得難きもののように言われているが、友達には金と時間がかかるものだということを忘れてはならない。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。